「【”我が心を解放させてくれた友、幼きダライ・ラマ14世・・。”チベット仏教の精神的に豊饒な思想に依拠した、他者に寛容な教えに従い生きるチベットの人々の姿も印象的な、精神浄化映画である。】」セブン・イヤーズ・イン・チベット NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”我が心を解放させてくれた友、幼きダライ・ラマ14世・・。”チベット仏教の精神的に豊饒な思想に依拠した、他者に寛容な教えに従い生きるチベットの人々の姿も印象的な、精神浄化映画である。】
ー 傲慢で、虚栄心に満ちたドイツ人登山家ハインリヒ。
彼が、チベット仏教の寛容で、相手を尊重する思想や若きダライ・ラマ14世に出会い、感化され、徐々に穏やかな表情になって行く青年を演じる、若きブラッド・ピットが良い・・。ー
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・1939年、ハインリヒが、家庭を顧みず、チベットの難峰、ナンガパルパットに挑む姿。
ー 当時の登山装備も興味深いし、ハインリヒが戦時下”何も考えずに、只、山を登りたい・・”という気持ちは分かる気がする。
妻の家庭の安定”子を持って・・”と言う気持ち。
ハインリヒが妻の妊娠を知っても、チベットに出掛ける姿。
エクストリーム登山家とは、深い業を背負う覚悟がないと、山に呑み込まれるのである。ー
・妻から届いた”息子が出来た・・”と言う手紙。それ以来、ハインリヒの心には、未だ見ぬ息子、ロルフの存在が徐々に大きくなっていく。ブラッド・ピットがその心情の変化を絶妙に演じている。
・1940年、連合国の捕虜になってしまう、ハインリヒと相棒のペーター(デヴィッド・シューリス)。それまで、彼らの関係性は良くなかったが(主にハインリヒが原因である)、徐々に距離を縮めていく姿。
・1942年、何度もの脱走失敗の果て、二人はチベットへ向かう。
ー ”困難であればある程、魂は浄められる”
そして、ハインリヒは未だ見ぬ息子との心の旅に出るのである・・。ー
・漸く辿り着いたラサ。
そこには、英語に精通した魅力的な女性ベマ・ラキ。先進的な考えを持つ政治家ンガワン・ジグメ。
そして、幼いが好奇心の塊で、聡明で、利発で、白い歯も印象的なダライ・ラマ14世が居た。
ダライ・ラマは、望遠鏡でハインリヒ達の姿を興味深げに観察し・・。
ー ダライ・ラマを演じた少年の微笑みが良いのである。好奇心に満ち溢れつつ、優しさが滲み出る姿。稀有な子役である。ー
・ハインリヒは、幼きダライ・ラマに未だ見ぬ息子ロルフを重ねつつ、親交を深めていく。映画館作り、動かない車に二人で乗ってのカーチェイスごっこ。
ー 背景には、息子ロルフから来た手紙に書かれていた”もう手紙は要らない・・”と言う文字を見た寂しさがあったのは、当然であろう・・。ー
・一方、ペーターはベマ・ラキと結ばれ、穏やかな表情になり・・。
ー 幸せとは、物質にあるのではなく、精神に依拠することが良く分かるのである。ー
・だが、毛沢東が建国した中華人民共和国の、愚かしき3人の将軍がやって来て・・。
ー ダライ・ラマとの面会シーンも印象的である。礼を尽くすチベットの人々に対し、礼節無き振る舞いをする将軍たちとの対比。
”宗教は悪だ!”と言い捨て、去る将軍たち。
現代まで続く、中国とチベットとの関係性の端緒である。ー
・ンガワン・ジグメの苦渋の決断による、降伏。
ー 彼なりの、チベットの今後を鑑みての決断であろう。ー
・ダライ・ラマとハインリヒの別れのシーン。
ー 彼が大切にしていたドビュッシーの”月の光”を奏でるオルゴール。それを従者にハインリヒへ、別れの品として贈るダライ・ラマの心遣い。ー
・ペーターとベマ・ラキとハインリヒの別れのシーンも良い。
ー ペーターが、バター茶が苦手なハインリヒに一杯飲ませ、二杯目を断るハインリヒに言った言葉。”これは、大切な友人が戻った際に飲むから、飲まなくて良い・・。”ー
<1951年 オーストリアに戻ったハインリヒが元妻イングリットと再婚相手が住む家を訪れ、“会いたくない・・”と言い、箪笥に隠れた息子に贈ったモノ。流れる、ドビュッシーの”月の光”。
ダライ・ラマからの”別れの贈り物”が、ハインリヒと息子ロルフの”心を通わす贈り物”になったというシーンは、実に沁みる。
そして、ハインリヒと息子ロルフがザイルでお互いの身を結び合い、冬山に登る姿。
佳い、映画である。>