劇場公開日 1930年10月30日

「前線を経験した兵士の群像物語。」西部戦線異状なし(1930) kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0前線を経験した兵士の群像物語。

2022年11月17日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 町は戦争一色、歓喜の声。学校のラテン語のクラスでは老教師が若者たちに全員志願をそそのかす態度。「祖国のために死ぬのが本望」と訴え、行きたくない者まで拒否できないような雰囲気を作ったのだ。入隊した学徒たちは知り合いの郵便配達人が上官になってたことにとまどう。そんな和気あいあいとした雰囲気も、訓練と実践によって夢から覚める。

 いきなりの前線。鉄条網を張る作業。さっそくクラスメートの一人が戦死。なんとか生還するも現実を目の当たりにした若者たちであった。これが1930年に作られた映画?と、驚くばかりの迫力。愛国心なんて生と死の挟間で一瞬にして消え去る現状なのだ。

 壕に暮らし、休む間もない兵士たち。次々と仲間が死にゆき、彼らの雑談の中にも戦争の意義を問う反戦意志が生まれてくる。「国が国に怒る」などと現実味のない言葉。偉い連中が若者を使って得をしているだけだと気づくのだ。

 主人公のポールはある銃撃戦で敵兵と向き合い殺してしまう。自分を取り戻して敵兵を生かそうと努力するも死んでしまうのだ。やがて3年の時が流れ、自分も負傷し、死の恐怖を味わうことになるがなんとか帰還。休暇中に地元へ戻ると、新たな愛国心を養おうとしている老教師と、ポールを臆病者となじる生徒。「国のために死ぬよりも命を大事に!」と、実戦を経験した者の声も虚しく・・・やりきれない思いで戦地に戻るのだ。

 完全版は2時間10数分。敵地であるフランス女性と一夜を過ごすとか、コミカルな部分もあったりして、無駄な部分はあるがかなりの大作。アカデミー賞受賞も頷けるのだ。現在の世界情勢はもっと複雑なので単純には語れないけど、戦争が生まれる直接原因はいつの時代も同じだと思う。上の人間が自分の利益のために国民の愛国心を煽る。どうしていつも一般人は騙されてしまうのか・・・

kossy