「引き込まれていつまでも終わって欲しくないと願ってしまう映画」スモーク あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
引き込まれていつまでも終わって欲しくないと願ってしまう映画
舞台劇のような構成の見事さ
ハーヴェイ・カイテルの語り口はまるで咄家の話芸のように引き込まれる芸の域だ
その他の役者達も芸達者な演技だ
そして影の主役はなんと言っても下町ブルックリンのなんの事のない騒音だ
あたかも観ている自分もこの下町人情物語の登場人物になったかのように、そこにいるかのように感じられるのだ
演出も見事だ
ラストシーンのクリスマスストーリーの回想シーンは特に素晴らしい
オーギーが若い姿ではなく現在の初老の姿のまま撮られているのだ
つまり実は去年の年末ことだったのかも知れないし、本当に76年の事だったのかも知れない映像になっている
カメラの箱は当時のモデルの箱だからだ
でも当時から新品のまま老婆の家に残されていたのかも知れないともとれるのだ
オーギーが写真を撮り初めた動機がそれなのかも知れないし、そうでないかも知れない
18年前に別れた女がきっかけかも知れないしそうでないかも知れない
でも、よく観るとオーギーが語る直前に見た新聞の宝石店強盗犯の写真の右の男の名前が、財布を落とした万引き少年の名前と同じではないか
新聞の写真の左側の男が持つネームプレートはクリムとある
だからポールの家に押し入ってトーマスの居場所を訊いた男だ、右側の写真の男はあの時にいた帽子を被った子分だ
回想シーンに登場する黒人の万引き少年の顔も同じだと思う
しかも冒頭では白人少年が同じように万引きするシーンも有ったではないか
だから、全部オーギーのデマカセ?
いいや、あの時の黒人の万引き少年が大人になって強盗犯になって射殺されていたのを新聞で知って、感慨深く思い出したのかも知れないではないか
そんなことはどうでもよい
クリスマスにはいい話ききたいだろ、それだけさそういうことだ
普通のしけた人間同士が大都会の下町の片隅で肩寄せあって生きていて、街角の煙草屋で顔を合わせている、それだけのことでいいのだ
それが生きていることの価値なのだ
煙草の煙のように何の必要性もない
それでも必要なのだ
引き込まれていつまでも終わって欲しくないと願ってしまう映画でした
製作総指揮に日本人の井関惺さん、製作に他二人の二人の日本人の名前かあります
このような素晴らしい映画の製作に日本人が関わっていること誇らしく思います
日本映画の製作だけでなく、世界の舞台でもっと日本人が映画作りに活躍して欲しいと思いました