劇場公開日 1981年10月31日

「【ゾーン】」ストーカー(1979) ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0【ゾーン】

2021年7月2日
iPhoneアプリから投稿

ゾーンという言葉が、ちょっと特殊な意味を持って使われたのは、僕にとっては、この「ストーカー」が初めてだった。

今では、スポーツ選手が、感覚が研ぎ澄まされる状態をゾーンと呼んだり、結構、カッコいい言葉でもある。

この作品は、惑星ソラリスよりもSF的ではない。

だが、人の内面にフォーカスして、哲学的・宗教的、更に、社会的な要素や視点を含み、エンディングでは、寓話的な教訓もあり、ユニークな映画になっている。

SF自体が、こうした要素を含むことは多いのだが、僕自身は、少し難解な大人向けの寓話だと思っている。

初めて観たのは数十年前だが、DVDも持っていて、半年くらい前からレビューを残すために、再鑑賞しようかだらだら悩んでいたところ、今回、劇場で惑星ソラリスと立て続けに観る機会が訪れるとは思いもしなかった。

シンクロニシティだろうか。
不思議な映画だ。

ゾーンは、実は、僕達の世界のような気がする。

製作当初は、ソ連社会を表現したと言われることもあったが、現代の僕達の世界に通じるものがかなりあると思う。

目標達成のためには、近道を考えるよりも、たとえ地道で遠回りでも着実に努力を重ねることが重要です。

よく聞く教訓めいた言葉だ。

ありもしない困難な道(※肉挽き機)がでっち上げられて、難なく潜り抜けると、あなたは素晴らしい人ですねと言われる。

怪しい物品のセールス・トークのようでもある。

そして、作家、物理学者、ストーカーがゾーンとは一体何か話をする場面もあるが、それぞれに表面的或いは理想的なことを言うが、その裏には何か良くない考えが透けて見える気がする。

ヤマアラシの願いとは裏腹に多額の富を手にしたという、人の心の奥底に潜む「本心」たる願いとは、こういうことだというエピソードは重要だ。

平和、平等、民主主義、様々な理想は掲げられるが、掲げる人間たちこそが反対のことを推進していたりする。

上辺と本心は異なるのだ。

これは、僕達の世界そのもののような気がする。

ただ、映画ストーカーの世界は寓話だ。

「善良な」ストーカーの足の不自由な子供は、善良なストーカーの「本当の願い」を具現化するように、超能力を手にしたのだ。

自由に動ける健常な脚ではなかったが、正直者は救われたのだ。

これは、僕達の世界に対して、映画が提示した希望なのかもしれない。

ワンコ