劇場公開日 1978年6月30日

「スター・ウォーズは何がイノベーションだったのか?」スター・ウォーズ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0スター・ウォーズは何がイノベーションだったのか?

2021年3月9日
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鑑賞方法:DVD/BD

本作の以前と以後で映画の時代を分けるほどのインパクトがあります
それほどの作品です
単なる昔の人気SF映画ではありません

公開されて40数年が経ち、本作の分析はそれこそ銀河の星の数ほどなされました
ひとかどの学者が本作をテーマに論文を書いたものまであります
というか公開当時十代だった熱狂的ファンが、学者になったということでしょう

5年程前に、日本のとある美術館でスター・ウォーズ展がありました
ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート所蔵の撮影に実際に使用されたコンセプトアート、ダースベイダーはじめストームトルーパーの衣装や小道具の数々だけでなく、ジョージ・ルーカス自身が世界中から収集した芸術家達の優れた二次創作絵画まで多数展示されており大変に見応えがあった展示会でした
その展示物の解説文の中には、神話構造との類似性から説き起こしたとても高尚な内容もあり感銘を受けたものでした

本格的な分析はそちらにお任せして、自分は日本のSFファン、特撮ファンとしてのオタクの視点でレビューします

なぜ時代が区切られるほど影響力を持つ作品なのでしょうか?
そのような映画は他にあるであるのでしょうか?

ゴジラはそれだと思います
ゴジラは映画のイノベーションでした
スター・ウォーズはそれに匹敵します
本作も映画のイノベーションだったのです
では一体何が革新的であったのでしょうか?

特撮?
世界観?
物語?

どれも違うと思います

本作の特撮は、確かにモーションコントロールカメラによる合成が駆使されています
同時代の日本の繰演中心の特撮では太刀打ちの出来ない新技術であり、当時最高の特撮映像です
しかしこれは1968年の「2001年宇宙の旅」の特撮映像の延長線にある正常進化です

日本の特撮にとっては黒船のような突然現れた驚異的なものですが、イノベーションとまでは言えません

世界観はスペースオペラと言われるものです
スペースオペラとはホースオペラをもじった言葉です
つまり宇宙版の西部劇という意味です

1930年代から1950年代にかけて米国はSF小説の月刊誌のブームがありました
日本の少年漫画雑誌の乱立のように数誌がしのぎを削る競合をして、今では古典とされる名作のSF 小説の数々が連載されて生み出されていました

しかし、中には舞台を宇宙にしただけの内容は西部劇と変わらないような娯楽作品も多数もあったのです

本作の世界観はこのスペースオペラそのものです
決して目新しいものではなく、特に米国人にとっては既にお馴染みのものだったのです

こういったスペースオペラ、略してスペオペ
実は米国でも日本でも馬鹿にされていました
軽く見られていたSFの中でも、さらに一段低く扱われていていたのはそうした理由からです

スペオペは名作SFとは異なり、かえりみられることもなく子供向けのマンガの中だけに生き残っているようなものだったのです

しかし特に米国人にとってはこの世界観が子供の頃に強く刷り込まれていたのです

この米国のSF小説誌は、戦後各国の駐留米軍から古本となって、やがてその国の好事家に収集されて読まれるようになって行きました

日本もそのひとつで、日本のSFのルーツのひとつです
1966年のテレビシリーズの「キャプテンウルトラ」を視れば一目でわかります
ルーツはスペースオペラであり、スター・ウォーズと同じ起源だと

米国人にとっては子供の頃の懐かしさのある世界観なのです

つまり世界観もイノベーションではありません

物語も、神話構造との類似性が数多く指摘されているとおりイノベーションではないのです

では一体何がイノベーションだったのでしょうか?

センスオブワンダー

この言葉はSFファンなら良く知られています
想像力の翼が羽ばたき、無限の高みから驚くべき光景を見下ろす快感!
そう言う意味であると自分は思っています

「SFは絵だよ」

これは日本にスペオペを紹介した第一人者野田昌弘の言葉です
彼の書いた「SF英雄群像」はスペオペを体系的に理解できる名著であり、SFマニアであれば絶対に読んでいなければなりません
小学校高学年の時にこの本に触れ、むさぼるように読み耽ったものです
この言葉はセンスオブワンダーの意味を日本語にした素晴らしい訳であると思います

本作にはこのセンスオブワンダーが濃厚に映像になっているのです
それが本作のイノベーションであるのだと思います

冒頭の宇宙戦艦の巨大さ
タトゥーインの二重太陽の日没
ジャバの赤錆た移動車両
モズアイズレーの宇宙人酒場
惑星を破壊できる月程の巨大なデススター
そこに急降下する無数の宇宙戦闘機

どれもこれもセンスオブワンダーを感じるものばかりです

センスオブワンダーを娯楽映画にする
それがイノベーションなのです

「2001年宇宙の旅」はセンスオブワンダーの塊でした
しかしコアなSFファンでなければ人を選ぶ作品でした

それに対して本作はスペオペです
徹底的に娯楽作品です
しかし娯楽作品であってもセンスオブワンダーは伝えられる
そのことをやってみせたのです

それが本作のイノベーションなのです
それが大ヒットした本当の理由だと思います

本作以降、センスオブワンダーを感じる映像が映画の中で一般的になっていったのです

スター・ウォーズ以前と以後で、ハッキリと別れたのはこれだと思います

スター・ウォーズシリーズでも、このセンスオブワンダーの濃度は次作以降どんどん低下して行きました
初期の三部作以降は特撮こそCGの発達で優れていく一方、センスオブワンダーは逆にあまり感じられない作品になっていきました

日本で本作に対抗して作られた特撮映画が、どれもまるで黒船に日本刀で立ち向かう浪人達の攘夷のように滑稽に見えるのは、当時の日本の特撮が遅れていたからとかではなく、センスオブワンダーがまるでなかったからです
その概念すら理解できなかったからです

本作は本当に別格です
センスオブワンダーの塊のような映画です
そのことで本作を超える映画は殆どありません
ブレード・ランナーとあとはいくつかだけと思います

最初のスター・ウォーズ
このよう作品はもう二度とでないかも知れません

いや、なんとしても出会いたいものです

初代の宇宙戦艦ヤマトはセンスオブワンダーが濃厚な作品でした
本作に先立つこと3年、驚異的なことです

最初のガンダムもアキラもエヴァンゲリオンも攻殻機動隊もセンスオブワンダーがあります
日本人にだってセンスオブワンダー溢れる作品は作れるのです!

世界に誇れるセンスオブワンダーが濃厚な日本の特撮映画が現れる日が来ることを切に期待します

あき240
雲呑さんのコメント
2021年11月10日

センスオブワンダー❗️私の好きな作品のキーワードを端的に気付かされました!ありがとうございます😭

雲呑
pipiさんのコメント
2021年3月11日

素晴らしい分析!
何度も大きく頷きながら拝読致しました。
SFファンの端くれとして、とてもとても嬉しく、懐かしい様々な記憶が全身を(魂を?)通り過ぎてゆくような心持ちが致しました。
大変、感銘を受けるレビューをありがとうございます。

pipi