真実の瞬間のレビュー・感想・評価
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とどめを刺す刹那に閃く真実
『黒い砂漠』フランチェスコ・ロージ監督の初のカラー作品。
【ストーリー】
主人公ミゲルはアンダルシア地方の貧しい農家の生まれ。
ある牛追い祭りの夜、元闘牛士という老人から闘牛の話を聞く。
ミゲルはバルセロナで働き、念願かなって闘牛士となり、そしてスターとして闘牛場をわかせる存在となる。
老人が語る真実の瞬間とは、マタドールが闘牛を仕留める最後の一撃の事。
身体中から血を流し、怒りと恐怖を内包した闘牛とその目をあわせ、そして冷静に命を奪う、その刹那の事だ、と老いた元マタドールは闘牛に憧れる少年に語って聞かせるのです。
田舎の少年が夢を追いかけ、あがいてついに手にするものの、その頂点であっけなく死が訪れる。
そんなとても単純な物語に生命感という重厚さをもたらすのは、実際の闘牛の映像。
身体中に剣を刺された闘牛と、最期の一撃をねらう闘牛士との、刹那の生命の交感。
ドラマチックなフィクション映像にはない真実の瞬間。
視聴後にドスンと重い、消化しきれぬ塊がお腹にのこります。
それは、このフィルムに本物の真実が焼きつけられているからでしょう。
闘牛士の光と影を鮮烈なネオレアリズモで描く青春残酷物語
フランチェスコ・ロージはネオレアリズモを代表するヴィスコンティ監督の「揺れる大地」でフランコ・ゼフィレッリと共に監督助手をして、その後継者になりました。オペラや商業映画に活躍したゼフィレッリと比較すると地味で鑑賞機会も少なく残念でなりません。ただこの作品はそのネオレアリズモのロージの素朴なスタイルと闘牛士の陰影を主題とした内容が合い、独特な世界観を醸し出しています。
主演は当時人気最高の闘牛士ミゲル・マテオ・ミゲランが演じ、貧しい農村出身の青年を好演しています。各地を転々とする闘牛興行シーンは実際のプロですから迫力があり素晴らしいですが、人気闘牛士になって故郷に帰り束の間の安らぎを得るところもいい。
ドキュメンタリーよりのリアリズムで描かれた、青春の栄光と虚無。独自の詩的な青春文学の趣があります。
作品そして記録として尊いもの
スペインの闘牛というものを克明に描ききっており、闘牛とはどんなものなのかこれを見れば一目瞭然、これを超える“説明”は皆無に等しいように思ってしまった。
古典的なストーリー展開ではあるけれど、丁寧な描写とともに迫力ある映像により非常に引き込まれ、流れがシンプルが故に、非常に面白いと感じられる。
面白いのと同時に、闘牛の魅力と衰退してしまう理由が明確に記録されていて、作品というものを超越した歴史的記念碑に似たようなものを感じる。
いろんな意味でこのような映像をつくり出すことは、もはや不可能に近いだろう。
とはいえ、ドキュメンタリーとフィクションの融合という観点からすると、非常に参考になるような作品だと思うし、これを超えるリアリズムを常に欲するところではある─まぁネオリアリズモの頂点を極めるような作品なので、非常に難儀なことだろうけれど…。
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