「「パピヨン」とならぶ刑務所映画の傑作」ショーシャンクの空に Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
「パピヨン」とならぶ刑務所映画の傑作
総合90点 ( ストーリー:95点|キャスト:90点|演出:85点|ビジュアル:75点|音楽:70点 )
同じ年に公開された「フォレスト・ガンプ」にやられて、七つもアカデミー賞候補になりながら一つも受賞出来なかった運のない作品。「フォレスト・ガンプ」も相当にいい映画ではあったが、この作品はそれと同等かそれ以上に良い作品なのに残念なことだ。
本作品はまず登場人物の設定が良い。そうじゃなくてもひどい暴力と性的暴行という刑務所内の劣悪な生活に加えて、その内部の不正と殺人が悲惨さに追い討ちをかける。無実にもかかわらずこの環境に20年も放り込まれてしまったティム・ロビンス演じる主人公アンディの悔しさ・無念さはどれほどのものであっただろうか。それでもふてくされることなく感情を露わにせず崩れることなく冷静にしたたかに生き抜こうとする執念としぶとさを示し続け、静かにしかしひたすら挫けることなく前向きに今出来ることを精一杯やり続ける彼の姿勢に感心させられると共に、その後がどうなっていくのか展開に目が離せない。
そんな彼のことを認めて興味を持って見つめる語り部役となるモーガン・フリーマン演じるレッドもまた重い人生を背負う囚人である。長い刑務所生活で調達屋としてしたたかに自分の地位をそれなりに築きながら、ひたすら娑婆に出ることを憧れ続ける。だが40年に渡る刑務所生活で彼の居場所はすでになくなっていたことに恐れおののく。アンディの理解者として彼の解説をしてくれるが、視聴者としては彼の送ってきた人生とその後にもまた興味を抱いてしまう。
さらに物語も良くできている。それは途中途中に当たり前のように起きる出来事が、最後に繋がって来るようになっているのが絶妙であるから。石の彫刻・女優のポスター・靴磨き・クリーニングの服・架空口座とそれを持つ架空の人物といった、物語の流れの中で自然に劇中に登場することが実は伏線になっていて、後でそれらが物語の重要な意味を持つことがわかり、その設定と散りばめ方が実に上手い。アンディは不屈の精神と頭脳でここまで準備をしていて、とんでもない大逆転をして汚職まみれの刑務官たちへの復讐も果たした。そして20-40年におよぶ長い長い刑務所の灰色の世界が続いた後の太平洋の青さが本当にまばゆいばかりで、実に爽快で過去の苦悩も未来への絶望も何もかも吹き飛ばされ開放された気分になる。
気になったのはレッドのメキシコ行きのこと。偽の身分証明書を用意していたアンディと違って、レッドは仮釈放の身では旅券を取れるはずもなく合法的に国境を越えることは出来ない。米墨国境の警備は、現在においてもたくさんの人が警備の隙をついて不法に砂漠を歩いて越境しているくらいだから、当時はさらに緩いのは想像できる。しかしもう若くはないレッドが歩いて砂漠越えはきついのではないだろうか。ちょっとだけでいいから、レッドがどうやって国境を越えたのかの場面があればすっきり出来た。
実は若い頃に初めて観た時には、悪くはないけれどそれほどに高く評価したわけではなかった。しかし年齢を重ねてくると、登場人物たちの経験した辛さや気持ちがよりわかるようになってきてきて、自分がアンディやレッドだったらと思うといたたまれない気持ちになる。だから彼らの生き方に共感するし、失ってしまった人生はもう戻らないけれども物語の展開からこの結末を観られて良かったと思えた。