「今のところ個人的にはトリュフォー最高傑作。もはやヌーヴェル・ヴァーグではないけれど」終電車 osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
今のところ個人的にはトリュフォー最高傑作。もはやヌーヴェル・ヴァーグではないけれど
ドヌーヴが好きでなかったので、ずっと食わず嫌いであったが、スチールを見たら、もう傑作の予感しかしなかったので、ついに観た次第。
これはメチャクチャ良かった。
すっかりドヌーヴが好きになってしまった。
おそらく最も美しいドヌーヴが見れる映画。
終わった瞬間は拍手したくなった。
ほぼほぼ夜のシーンに徹底したのが効果的で、撮影は流石のネストール・アルメンドロス。
室内の照明や蝋燭の微妙な光を見事に捉えて、暗く抑圧された占領下の雰囲気が如実に現れていた。
劇場内のセットには、幸運にも占領時代のまま手付かずで放置されていたチョコレート工場が利用されたらしい。なるほどのリアルさだ。
役者達も本当に皆んな素晴らしかった。
しかし、ではあるのだが…
『終電車』というタイトルの割には…
(当時、占領区では、11時以降は、外出禁止で、パリ市民は地下鉄の終電車を逃したら大変だった)
ナチスに占領されているというリアルな緊迫感が、あまりに希薄。おそらくワザと。
そして、かつては「カイエ・デュ・シネマ」の誌上で、当時のフランス映画の巨匠たちを酷評し続け「フランス映画の墓掘り人」とまで言われたヌーヴェル・ヴァーグの旗手の一人にしては、随分と濃厚にフランス映画の伝統的な物語へ回帰した作風となっている。
この変節を成熟という人もいるかもしれないが、あれほど痛烈に他人を批判していた以上、自分に対する無批判は有り得ない。
やはり、その点を踏まえた上での、メタ視点な自己への批評性は必要だったと思う。
また本作のスタイルと思うが、各シークエンスの話が途中で寸断され(伏線回収の類いも特になく)次から次へ展開していくのも、ちょっと物足りなかった。
劇場の乗っ取りを如何に回避したのか?は後半の良い見せ場になったと思うのだが…
トリュフォー、曰く「占領下のパリでひとつの劇場とひとつの劇団がいかにして生き延びたかという物語」であった訳だし。
あと、初日のカーテンコールの直前、ドヌーヴがドパルデューに思わず瞬間的にキスする重要なシーンは、もっと寄りのアップで印象的に撮って欲しかった。
姦通も重要テーマだった割には、こちらの演出が控えめだったのも残念なところ。
とはいえ、クランクインまでは資金面で危機が訪れていた本作、無事完成に漕ぎ着けてくれて本当に良かった。
トリュフォーは本当に幸運な男だったと思う。