「お前の父はこのワシだ!」シャイン ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
お前の父はこのワシだ!
「人生は残酷だ。その中で生き残る」
午前十時の映画祭14にて鑑賞。
天才ピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの苦悩と栄光に満ちた半生を描いた伝記映画。現代のヘルフゴットを演じたジェフリー・ラッシュは第69回アカデミー賞で主演男優賞を受賞し、オーストラリア人俳優として初の快挙を達成した。
多分、多分いい話だ。だが謎、謎だ。当初僕はデヴィッドの精神状態が崩壊したのは父ピーターの苛烈なまでの過干渉によるものだと思っていた。今で言う毒親、そう毒親だ。家は貧しかったが、ピアノの才能を認められてアメリカへの留学が決まりかけていたデヴィッド。留学資金も寄付によって集まっていたにも関わらず「家族が壊れる」と言う理由で留学を反故にした父、この時点で毒親に見えたし、自分がこんなことをされたら「そりゃあ人格歪むよな」とさえ感じた。しかしヘルフゴット自身の述懐によれば精神に異常をきたしたのはその後のロンドン留学時代であり、とすると父ピーターの見立てはあながち誤りではなく、むしろ子想いにさえ映ってくる。とはいえロンドン時代の統合失調のトリガーを引いたのはラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」であり、その原点は幼少期の父からの刷り込みによるものであることを考えると、(実際のところはともかく少なくともこの作品上では)やはり毒親だったと言わざるを得ない。
青年期のデヴィッドが妙に不潔だったのが自分の心の奥底に引っかかってしまい、途中でやや冷めてしまった部分はあったが、ジェフリー・ラッシュが(普通ではないけれど)生気を取り戻してくる姿は素直に嬉しかった。極上の果実が周囲によって汚されていく歯痒さと悔しさと、それでもどうにか実になったことに今はただ安堵している。