「変化を遂げるテキサスに生きるアメリカ人の価値観の変遷を雄大に描いた大河ドラマ」ジャイアンツ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
変化を遂げるテキサスに生きるアメリカ人の価値観の変遷を雄大に描いた大河ドラマ
昨年の3月に亡くなったジョージ・スティーヴンスは、アメリカ映画界で最も誠実な映画監督の一人であった。その良き表れは、1953年制作の「シェーン」における正義感溢れるアメリカ開拓精神を謳い上げた演出タッチであり、1965年の大作「偉大な生涯の物語」の敬虔なキリスト教映画の真摯さに見て取れる。娯楽西部劇の青々とした山々を清く撮らえた映像美も然ることながら、スティーヴンス監督の実直な制作姿勢が無ければ深い感動も生まれなかっただろうし、後者は、数多くのキリストを主人公にした映画の中で最も正当で厳格な作品に仕上がっていた。どちらの演出も素晴らしく、感銘を受けた記憶は消えない。しかし、アカデミー賞においては、1951年の「陽のあたる場所」で監督賞を受賞しており、更にこの「ジャイアンツ」で2度目の栄冠に輝いている。テキサスを舞台にした近代アメリカの変容を描いた3時間を超える大作ながら、その安定した悠々たる演出に緩みが無く、このスティーヴンス監督の長所が作品を奇麗にまとめ上げている。
主演のロック・ハドソンとエリザベス・テーラーの演技も堅実で、スター俳優の枠から飛躍した役者として好演している。そして、何といっても孤児の牧童を演じたジェームズ・ディーンの、打ちひしがれた宿命的な人間表現が素晴らしい。「エデンの東」でその個性の独自性をエリア・カザン監督に認知され、「理由なき反抗」では素に近い青年役をニコラス・レイ監督に求められたジェームズ・ディーンは、この作品では堂々と役者の演技を披露している。多分にスティーヴンス監督の演技指導あっての賜物であったと予想する。ディーンにとっては初老の大富豪まで演ずる難しさがあったと思われるが、彼の演技に対する情熱とスティーヴンス監督の演出が噛み合った成果ではないだろうか。後半のジェット・リンク像が微妙に喜劇的に見えるのは仕方ないとして、それも含め興味深い人物表現になっていると思われる。
エドナ・ファーバーの小説を原作とする映画は、20世紀前半のテキサスが大牧場経営から石油生産を成して莫大な資産を形成する産業革命と、第二次世界大戦の歴史変動の社会まで描く。主人公ジョーダンのベネディクト家では、後継ぎの長男が医者志望で父と対立し、妻にメキシコ人を娶ることで更に溝が深まる。娘をスイスに留学させたいと考える母親の願いも結局は実現しない。これら含め家庭内の出来事が、近代化していくテキサスに生きる人間の価値観の変化を反映させている。貧しいメキシコ人の人々もレズリーの配慮で次第に生活が楽になったように見えるが、若いメキシコ人の青年が戦争の犠牲者になっていく差別社会も描かれている。ベネディクト家の女主ラズに可愛がられた牧童のジェットは、彼女の死後僅かな土地を遺産相続して、石油堀に一獲千金を夢見る。そんなジェットを心配してレズリーが訪ねるシーンが、とても印象深い。初めて会った時から恋心を抱きながら、御主人様の奥様という身分の違いに想いを秘めて接するジェットが、コーヒーではなく紅茶で持て成す。西部男はコーヒーしか飲まないと、東部出身のレズリーが愚痴をいう。数年前の初見のテレビ見学で、このシーンの解説をした淀川さんに教えてもらった二人だけの重要な場面。西部女になろうとして気丈に振る舞ってきたレズリーと、西部男には珍しい繊細な神経を持つジェットが、ふたりの演技で微笑ましい名場面になっている。その後の石油を掘り当てたジェットが全身真っ黒になって、おんぼろトラックでベネディクト家に乗り込むシークエンスがいい。失恋の裏返しでその後富豪の仲間入りをするが、決して心が満たされることの無いジェットという男にみるアメリカ近代の急激な変化の影。片や着実に資産を増やし名実共にジャイアントになろうとするジョーダンは、身内の人種差別に合う。白人と混血の二人の孫を見詰めるベネディクト家が立ち向かうラストは、差別のない自由なアメリカ社会を願うメッセージで綺麗に終わる。
興味深いシーンで特記したいのは、男性だけで政治論争をしている輪の中にレズリーが割って入ろうとして諫められるところ。この時代の女性差別、男女の役割の垣根が高かったことが分かる。柔和な女性と思われていたレズリーに驚く男性たちの反応が面白い。二人のテキサス男の隆盛を比較しながら、近代アメリカの産業変化と人々の生活に密着した価値観の変遷を併せ持ったヒューマン溢れる大河ドラマの秀作である。
1976年 9月28日 大塚名画座
Moiさん、共感とコメントありがとうございます。
ジョージ・スティーヴンス監督の丁寧な演出が大好きです。色んな映画を観ていて演出の優しさに出会うと幸福感に包まれますね。戦後作品しか観ていませんが、「ママの想い出」「陽のあたる場所」「シェーン」「ジャイアンツ」の4本は、アメリカ人を飾らず素直に表現していると感じました。その誠実さと巧みな映画演出の両面を持ち合わせているスティーヴンス監督は、アメリア映画界の中で、とても貴重な存在と改めて思います。
ジョージ・スティーヴンス監督。
1950年代頃迄の、アメリカ国民が持ち得ていた、善良な心と敬虔なプロテスタンチズムに基づく人間の姿を各作品に描いていた名匠ですね。大好きな監督さんの一人です。
毎日のようにお邪魔して、すみません。
素晴らしいGUSSAVさんのレビューを拝読しまして、
赤面しております。
絶対に語彙が足りなくて、私にはこんな理論的なレビューは書けません。
ただ、良い映画を観た・・・その喜びだけです。
いい映画てしたね。