劇場公開日 1966年6月14日

「素晴らしい功績を残したが…」市民ケーン D.oneさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0素晴らしい功績を残したが…

2020年5月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

 映画における革新的な技法を生み出した名作中の名作。しかしながら、その素晴らしき技法をみっちり詰めこんだ作品に尽きたが故に、今日の観点から観てしまうと全く面白さを感じとることができないようです。でもそれはつまり、この作品が生み出した功績を我々は知らずのうちに全面的に享受していることを意味しているのです。
 外側から窓を捉えたショットから、少しずつ窓に向かって近寄り、そのまま窓を通り抜けて内側を映し出す技法は、当時誰も見たことのない斬新な演出で後の殆どの映画に多大な影響を与えたようです。クレーンを使った撮影も当時はとんでもないほどの衝撃だったでしょう。高い位置から降下する没入感や、鳥にでもなったかのような強い衝撃と映像体験だったに違いありません。
 ケーンがスキャンダルによって選挙に敗北した直後のシーンでは、カメラの視点が足元から見上げるようなローアングルで敗北感とマイナス的印象を与えていると同時に、ケーンの変わらない傲慢さを感じますし、オーソンウェールズの顔を映し出す影も、哀愁と孤独感を大いに漂わせる演出です。同じオーソンウェールズの「第三の男」なんてまさに影の映画ですしね。光と影の調整なんて、今日では絶対的に外せない超当たり前の技法で、ほぼ100%の映画で行われている演出なんじゃないでしょうか。
 今では当たり前である映画的手法の生みの親みたいな映画だから、今の我々から観れば全然面白くないのは当然です… でもそれがかえって、この映画がいかに多大な功績を遺したのかを物語っているように思えます。

D.one