「この手があれば、今日も生きていける。」自転車泥棒 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
この手があれば、今日も生きていける。
絶望、胸がキリキリとしめつけられ痛くなる映画です。切ないなんて言葉では足りない。けれど、私にとっては、もうダメだと絶望につき落とされた時に頭を過る映画の1つです。映画の中には希望のかけらもないのにね。
「イタリア・ネオレアリズモの代表作」と聞いていたので難しそうだなあと敬遠していました。けど、そんな頭でっかちな評(評論家の方々ごめんなさい)なんか置いておいて、とにかく観てほしい映画です。
下記のような”あるある”感が”イタリア・ネオレアリズモ”? 丁寧に描かれています。素人役者と知ってビックリするほど。
自転車盗まれる前に鍵かけなさいって、その鍵買うのにもお金がいるんだよ。
食べることにも困るような、仕事もない不況でサッカーに興じているなんてさって、やることないから、その時その時に興じれる、盛り上がれるものに集中して発散しているんだよ。こういうのがないと暴動にも発展しかねないし。
ましてや明日は明日の風が吹く、アントニオみたいにせっかく手に入れた仕事だって、明日にはどうなるかわからない。だから一瞬一瞬に打ち込んで楽しむしかないんだよ。
コミュニティが皆でコミュニティの一員かばって、アントニオをボコボコにしてって、そういう結束力があるから無職になってもなんとか食べていけるんだよ。一人は皆の為に、皆は一人の為にってね。
という風に、赴任していた”発展途上国”と言われる国をそのまんま思い出すような”あるある”感満載の映画。
そんな背景の中で紡がれる物語。
「仕事に必要な自転車がない!!!」→「仕事に必要な●●がない!!!」→「失職する!!!」という恐怖感。
例えばデータがLOSTしちゃったとか etc…。人生で次々に遭遇する喪失感・絶望感。「ああ、このままじゃ破滅だ…」ムンクの叫びそのままの世界。その焦り・絶望・驚愕。
アントニオのパニックがわが身に降りかかる。なんとか挽回しなきゃと闇雲に放浪(探しているつもりでも論理立てて探せない)。藁をもすがるつもりで、頼りにならない人ー時にはかえって混乱させてくれる人々への相談。落ち着け自分、元気出せ自分とばかりに、かえって事態を悪化させるような行動をとってしまう。挙句の果てに…ああ、あれさえあればこの危機を乗り越えられる。視野狭窄。そして自分の首を絞めて、さらなるドつぼへ…。ああ。アントニオの行動そのまんま。
もうダメだ。どうしようもない。奈落の底に落ちた自分。生きていくことさえ苦痛になっていく絶望感。
古い映画ですが、アントニオはそのまんま、右往左往している今の自分。ここでも”あるある”感満載。
そしてラスト。
子どものブルーノが泣きながら、全てを失って茫然自失となっている父であるアントニオの手を握ろうとする。だが、父はその手を振り払い握らせない。情けなくって情けなくって、子どもの手を握り返せないのだろう。でも子どもは諦めない。何度振り払われても父の手を握ろうとする。そして何度目かに、やっと父はこの手を握る。その手を子が握り返す。そして今度は父はしっかりと子どもの手を握りしめ、二人は歩いていく。
この手がある限り、死んではいけない、そう思う。そういう映画です。観てください。
tokyotonbi様
コメントありがとうございます。
ぜひ、ご覧になってください。
ただ、盛り上げよう、感動させようという演出は一切なく、ひたすらこの親子を追っていくだけなので、その点についてはご了承の上、ご鑑賞ください。
(コメントへの返信をどうすればいいのかわからず、ここに記入してしまいました。失礼しました。)
いきなりすみません。
感傷的なコメントになってしまうのですが、
感想を読んで泣けてしまいました。
この映画見ようと思います。
ありがとうございます。