「魔物」地獄の黙示録 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
魔物
『ゴッドファーザー』に並ぶフランシス・フォード・コッポラの代表作、ベトナム戦争映画の名作…なんて言わずもがな。
“衝撃作”“問題作”“伝説の…”という言葉は本作の為にあるかのよう。
ワーグナーの『ワルキューレ』に乗せてヘリ部隊がベトコンの村を奇襲するシーンは何度見て聞いてもしびれる。その後他の作品でこのシーンを何度見た事か。
それにしても、いつも思うが、“地獄の黙示録”という、これに匹敵する強烈な邦題は無い。
これほど異質な戦争映画も他に無い。
“地獄”への入り口は入り易い。
主人公のウィラード大尉に軍上層部から、カンボジアのジャングル奥地に自らの帝国を築いたカーツ大佐の抹殺を命じられる。
だが、スリルとエンタメの任務遂行戦争アクションの醍醐味は微塵も無い。一体我々は、何を見せられているのか。
非道な命令を下す軍上層部、序盤は気を病んでると思ったウィラードすらまともに見えてくる。
ロバート・デュヴァル演じるヘリ部隊の隊長、キルゴア。
サーフィンがしたいが為にベトコンの村を焼き払う。
ウィラードが言う通り、何故キルゴアは許されてカーツは許されない?
ジャングル奥地で開かれたセクシー美女たちの慰問ショーに狂喜する兵たち。
ウィラードに同行する若い兵たちもとても極秘任務に適しているとは思えない。
理性などとっくに無い。
元々疲弊し、異常な光景を次々と目の当たりにしたウィラードにとって、遂に出会った何処かカリスマ性あるカーツの思想に傾倒し始めるのも無理はない。
それは一種のマインドコントロールだったかもしれないが、こんな異常の中では、正気を保つ為に何かにすがりたい。
カーツも同じだったかもしれない。
客観的に見ればキチ○イ思想の宗教団体の開祖だが、どんな野蛮な行為も許される戦争に加担した自らの善と悪への答えの無い問い掛け。
カーツはこのベトナム戦争でおかしくなった。
アメリカ史上最悪と言われた泥沼戦争。
最後、ウィラードは任務を遂行し、帰途に着く。が、その後の彼を思うと戦慄する。一生この地獄に苦しめ続けられるだろう。
“帝国”に取り残された現地人たち。
死を望みながら、死の間際、“恐怖”を見たカーツ。
勝者も、善悪も、何も無い。
あったのは、誰もが狂気の中に抱いた“恐怖”のみ…。
怪優と呼ぶがぴったりのマーロン・ブランドの憑依、映像や音楽のインパクトも凄まじいが、本作の全てを理解する事は到底不可能。
どんなに映画に精通している批評家だろうと映画人だろうと映画ファンだろうと。
各々抱いた感想は、的を得ているし、見当外れでもある。
コッポラすら製作していながら、自分が何を作っているのか分からなくなったという。
本作の後、コッポラは長らくスランプに。言わば、コッポラは一度“死んだ”。
魂を奪われるほどの、コッポラは『地獄の黙示録』という魔物を産み出した。