「手に入れたかったもの」シェーン とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
手に入れたかったもの
有名なラストシーン。
そこから、母子家庭を助けて去るハードボイルドだと思っていたら、全く違った。
主人公からして違う。ジョン・ウェイン氏系のごつい男だと思っていたら、なんと頼りなげな甘いマスク…。もう一人は、日本だったら悪役か、エキストラ系の眉毛繫がり男。(かわいいと思い込んでいた)男の子はドングリ眼だし…。借りてきた映画を間違えたかと思った…(笑)。
領地争い。
この土地は誰のものか?って、「ネイティブ・アメリカンのものだよ」という正論は、映画が製作された時代的に、なかったことになっている。
当時凶暴なということにされている”インディアン”を追い払い、それなりの安全を確保したカウボーイたちが、後から来た農場主に土地を奪われ…(自分たちがやったことをやり返されているだけじゃないかというツッコミは置いておいて)。
とはいえ、農場主は農場主で、新しくできた法律に基づき、その土地を開墾しているのであって、違法なことをしているのではない。
国を発展させ、移民してきた人々に生活の糧を与えるためとはいえ、なんという無茶苦茶な法律を作るのか。そして、その法律を機能させるための、政府のアフターフォローはない。すべて自分の力頼み。
自分と家族を守り、夢をかなえるのは自分の力。アメリカン・スピリットの権化のような一家が、この映画の本当の主人公。そして、その家族に加担する風来坊。
硬直した事態がどう動くのか。
どっちの言い分も決して間違っていない。そして、どちらも自分の主張を譲らない。
広大な土地。とはいえ、元々作り出さずに、その土地にあるものを使って生きる放牧民には、想像以上の範囲の土地がいる。開墾組の農場主にとってだって、土地ならばどこでもいいわけではない。禿山を何ヘクタールももらっても意味がないように、耕作に適した土地でないと意味はない。それだって、汗水たらして開墾しないと…。
だから、お互い必死なのは必然。
とはいえ、交渉はしてくるが、オール オア ナッシング。すべてを手に入れるか、そうでないかだけ。譲り合い・分かち合い等の、共存の道を探るという選択肢はない。農場主は権利の主張だけで、交渉すらしない。
これがアメリカの原点?
シェーンの活躍を描くだけの映画ではない。
スターレット一家の決意と苦渋。それが本筋。
だから、終盤、スターレットとシェーンの殴り合いが長い。シェーンを格好よく見せるためならば、一発でのしてしまえばいいのだが、アメリカン・スピリットを体現するスターレットをそんなに弱く見せるわけにはいかない。
映画としての見せ場であろう、ラストのガンファイトより長く感じる。
その、シェーンとスターレットの殴り合い場面の見せ方がおもしろい。
正直、シェーンを演じたラット氏は大根役者。また、アクション監督はいなかったのか、この場面でも、他のシーンでも、アクションの見せ方はうまくない。
だからかどうかは知らぬが、ここの場面、殴り合い場面はあまり見せない。家の中から、妻が心配して叫んでいるシーンで見せきる。
そんな風に、直球ではなく、演出で見せてくれるシーンが幾つかあり、面白い。
(馬に追いつくジョーイの健脚みたいなツッコミどころも多数あり。ラストシーンのために目を瞑ろう)
--蛇足:しかし、主演はなぜラット氏なのか。ガンマンとしての立ち振る舞いも様になっていない。フリンジのついた衣装やガンベルトにも着られているように見える。
特に、バランス氏が登場してからは、バランス氏が決まりすぎて、どうしてもラット氏のアラに目が行ってしまう…。
バランス氏に比べて、ラット氏の泥臭さが、スターレットの仲間として良いのか?確かに、バランス氏が開墾しているところは想像できない…。--
ラスト。シェーンが立ち去る理由に死亡説があると知る。
う~ん。死ななくても、戻ってこなかったと私は思う。だって、農場を去るとき、作業服ではない元の服を着ているよ。妻とお別れしているよ。スターレットをのして行ってはいるけれど、ある意味、スターレットの顔つぶしているよ。
そしてシェーンの台詞「人を殺したら~(思い出し引用)」。自分の行動への覚悟。
死を覚悟して敵地に赴くシェーン。
袖すり合うも他生の縁、というだけではなかろう。
自分の命を懸けてまで、安住の地を捨ててまで守りたかったもの。
そもそも、草鞋を脱いだのはどうして?同じ風来坊ながらも、『用心棒』の桑畑三十郎とは違う立ち位置。
スターレット家への想い。妻へのほのかな思いもあろうが、それだけではないのではなかろうか。
お互いを愛しみ合う家族。暴力のない暮らし。自分の技を継承してくれる存在。シェーンがつかの間に得た生活。
シェーン、スターレット、ライカーがそれぞれ、手にしたかったもの。その方法。そして、彼らの去就。
人の道・法に基づき行動したスターレット VS 人の道・法を超えてしまったライカーとシェーン。
暴力による解決の終焉。
シェーンの背中の寂しさに、胸を揺さぶられる。