「浮気と本気の恋愛に正直であろうとするフランス映画のシニカルなユーモア」さよならの微笑 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
浮気と本気の恋愛に正直であろうとするフランス映画のシニカルなユーモア
フランス映画らしい新作が少なくなり、アメリカ映画の圧倒的勢力に世界の映画界が支配された前提から、このタッシェラ作品が久し振りのフランス映画の佳作であるという評判は正当に認められる。男女の恋愛意識を大胆に洒落たタッチで、しかも新しい感覚で描いているからだ。最近笑って観られる映画が無かったこともあり、心地良い印象を持つ。脚本家出身のタッシェラ監督の特徴からか、ドラマ全体の完成度よりは、一つひとつのシチュエーションの描写力と可笑しさが傑出した映画の良さである。
マルト(マリー・クリスチーヌ)の母親とルトビク(ビクトル・ラヌー)の伯父が結婚する。親族一同が列席する、この結婚式が面白い。大人から子供まで対照的に個性豊かに描かれている。しかし、皆が結婚記念のスライドに見入っていると、突然花婿の伯父が亡くなってしまう。そこにルトビクの父親が訪れ、結婚式がお葬式に変わり執り行われるが、何故か彼は教会の中に入ろうとしない。ルトビクの一人娘の孫にお土産を持参するも、それは10年前にせがまれた人形だった。ここら辺のチグハグ感が何とも可笑しい。最愛の夫を亡くしたばかりのマルトの母親は、夫の兄にあたるこのルトビクの父親と親しくなる。
マルトの夫がルトビクの妻と浮気をしていたことが明らかになり、それがどうした訳か数人にも及ぶ女性との関係を切ることになる。その場に居合わせたバスの運転手の怒った顔が面白い。夫に裏切られたマルトは、当てつけに偶然出会ったように仕組んでルトビクとレストランで落ち合う。マルトの夫とルトビクの妻は、次第にふたりに反発を感じる。マルトとルトビクは、ふたりの関係が知れ渡り、すでに肉体関係にあるという噂に応えて、遂にホテルに宿泊する。このホテルのシチュエーションは艶笑喜劇の定番のパターンだ。会うたびに二人がケーキを食べるのも、細かい描写の可笑しさがある。マルトの夫は、ある結婚式で泥酔し、妻への怒りをぶつける。派手な浮気をしていた男の自業自得であり、マルトに未練を残す男の哀れさもある。一方、ルトビクの妻は自殺を試み剃刀の刃を手にするが、軽く傷付けただけで終わってしまう。本気でない遊びの男女関係から次第に愛を育む男女の関係を、皮肉とフランスらしい遊び心で描いた大人の恋愛映画。道徳的には全く関心出来るものでは無いが、恋愛に多感なフランス映画の長短が良く表れていると思う。感動とは無縁でも、クスクス笑える恋愛喜劇として観れば、これはこれで十分楽しめる。
1978年 10月26日 ギンレイホール