劇場公開日 1996年10月26日

「今の人生を生きていない男」ザ・ファン 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0今の人生を生きていない男

2025年6月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 ロバート・デ・ニーロ演じるギルの人生の最盛期はリトルリーグで活躍していた頃で、その頃の彼は今の人生を良くしようと未来に向けて努力していたのだろう。それが大人になるにつれて、未来に向けて努力するのを止めてしまい、過去に囚われるようになった。彼が野球に執着するのはそういった輝かしい過去の投影のため。それが原因で仕事もうだつが上がらず、夫婦仲にも亀裂が入った。夫婦仲については、おそらく以前から妻の蓄積された不満があったはずだ。球場に子供を置き去りにしたのが決定打だったのだろう。

 要するに、彼は今の人生を生きていないように見える。ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』の落ちぶれた女優を連想させる映画だった。

 今作はもっと全編に渡ってギルの狂気を見せつけてくる映画なのかと思いきや、前半の彼は割と普通の人。でもトニー・スコット監督の演出がとても上手くて飽きさせない。音楽、カメラワーク、光や雨などの効果的な使い方が緊張感を出せていた。彼の他の映画でも思ったけど、演出が一流の監督だな。

 ロバート・デ・ニーロの怪演も光る。彼が不機嫌になったときの演技は迫力があって良かった。

根岸 圭一
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