「引き際を知ると言うこと」ザ・シークレット・サービス あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
引き際を知ると言うこと
本作のクリント・イーストウッドは主演男優としてのみで、監督はウォルフガング・ペーターゼンです
まるでクリント・イーストウッドに当て書きの脚本で、彼にしか演じることができないほどだと思います
ケネディ大統領の暗殺事件からちょうど30年目の1993年公開
クリント・イーストウッド63歳
劇中でもそのくらいの年齢設定です
30年前、ケネディ大統領の護衛についていたが、自ら盾になって銃弾から大統領を守れなかったシークレットサービスという役です
車を持たないのはその時の精神的な傷がそうさせているのかも知れません
その自責から、一時は酒に溺れ生活が荒れて家族も離れて独り淋しく暮らしていますが、シークレットサービスは続けています
ケネディ大統領の護衛についていたくらいですから、超優秀な中の超優秀だったのは間違い無いでしょう
だから今は若手と組まされて、新人育成係みたいになっているようです
主人公フランクは、一応真面目に仕事をしていますが、適当に流している感があります
それでもやるときはやれてしまう超優秀さは維持しています
しかし現役の連中から、年寄りだとか、暗殺事件の時の……と影口を叩かれていて過去の人扱いです
それでもリタイアしなかったのは、彼にも意地があったのでしょう
アメリカは定年退職というものがないそうです
年齢による一律の解雇は年齢差別となるからで、人によっては、80代でも現役の人までいるそうです
個人が引き際を知ってある程度の年齢になると辞める
と言うのは綺麗事で、給料に見合う成果を出せなくなったら容赦なく首を切られるだけなのかもしれませんが……
暗殺予告電話があって、その意地を晴らす時が来たと主人公フランクは張りきって大統領の護衛チームに復帰を願いでるのですが、早々にもう体力の限界であることを思い知るのです
しかも長年流して仕事してきたので、一応真面目に頑張っていても美人護衛官リリーと知り合うとつい口説いてしまう体たらくです
結局、自分の体力と能力を過信し過ぎて大失敗を起こし護衛チームから外されてしまいます
しかし暗殺者が想定以上の強敵、というか化け物のような奴と分かりだすと、彼も必死になって行きます
結末は、暗殺を阻止して、自分の意地にも決着をつけて彼は勇退を決意します
ラストシーンは首都ワシントンの連邦議会議事堂のリンカーンの座像の前の階段に座ってアイスクリームを舐めながら眺める、ワシントン記念塔の向こうの綺麗な夕映えです
白い鳩が飛んで行きます
クリント・イーストウッドは1930年生まれ
米国ではベビーブーマー、日本では団塊と言われる世代より15年程早く生まれています
日本なら高度成長を成し遂げた世代です
米国でも戦後世界をリードしてきた世代でした
彼らの世代がリタイアしていくことを、その夕焼けが見事に象徴しています
飛び去って行く鳩に彼らが投影されているのです
ベビーブーマー、団塊世代がリタイアしていくのはこの15年後
日本では65 歳定年制になって、20年後の事になりました
きっと仕事をあまりしないおじさんが、あなたの会社にもいると思います
つい邪険に扱って、本作の護衛チームのリーダーみたいな生意気な口をきいてませんか?
実はフランクのようなスゲーおじさんなのかも知れませんよ?
そんなことないか、やっぱり
ただのセクハラおやじだなあ