「愛のために死にかけている赤い家。」叫びとささやき Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
愛のために死にかけている赤い家。
20世紀最後の巨匠ベルイマンの代表作。 本作で描かれるのは互いに相反しながらも根源では繋がっている切っても切れないもの。「叫びとささやき」「生と死」「情熱と冷酷」「愛と憎しみ」「赤と白」。まず目を奪われるのはインパクトのある映像。壁から床、家具調度まで真っ赤な部屋の中で、静かに動き回る白い服の女たち。そして赤いベッドで真っ白なリネンに包まれて横たわる病気の女・・・。対照的な赤と白が、その家の特異さを物語る。その家で暮らす4人の女、理性的な長女、病気の次女、華やかな三女、地味なメイド。この4人の女たちの中にある様々な感情が、叫びとなり、ささやきとなり、我々をその世界へ誘っていくのだ。複雑な愛憎で今にもバラバラになろうとしている彼女たちを繋ぎとめているのは、死にかけた次女。彼女の肉体的な苦しみが残りの3人の心を優しくする。長女は、痛みをこらえる彼女の髪をとかし、三女は本を読んで聞かせる。そして母性愛の強いメイドは、まるでピカソの描く聖母のように、豊かな胸で彼女を抱きしめる。彼女たち心の奥底に潜む歪んだ愛情。それは行き場を失った愛のしこり。長女には愛という情熱を拒む夫への、次女には幼い頃亡くした母への畏怖、三女には自分への愛が覚めてしまった愛人への、そしてメイドには幼くして亡くした自分の娘への・・・。亡霊のように4人の女たちに憑りついている「行くあてのない愛」のためにこの赤い屋敷も死にかけているようだ。 皮肉なことに、この家で一番「生命」に溢れていたのは、病身の次女。彼女は、肉体の苦しみを何とか乗り切って、生きよう、生きようともがく。夜毎の彼女の「叫び」は、この家に人間が住んでいるという唯一の証だったのだ。「理性」という仮面をつけて、家族の「ふり」をしていた姉妹たちは、次女の死によってバラバラになる。長女と三女は互いの心に秘めていた愛憎を一気に吐露する。愛し合い、憎しみ合って、思いのたけをすべて吐き出すと、彼女たちは再び仮面をつけて、この家を去っていく。永久に・・・。残されたのは次女の悲しい生への想いだけか・・・。