「【サウンド・オブ・ミュージック】 映画レビュー」サウンド・オブ・ミュージック honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【サウンド・オブ・ミュージック】 映画レビュー
作品の完成度
ロバート・ワイズ監督による1965年の『サウンド・オブ・ミュージック』は、そのジャンルにおいて「完璧な完成度」という言葉に最も近い地点に位置する作品である。この映画は、ミュージカルという形式が持つ非現実性を、オーストリアの雄大なアルプス風景と、家族愛、そして迫り来る歴史の影という普遍的なテーマに融合させることで、時間や文化を超えて観客の心に響く稀有な傑作となった。ブロードウェイの成功作を映画化するにあたり、ワイズは単なる舞台の再現に留まらず、その壮大なスケール、感情の機微、そして音楽の力を最大限に引き出すことに成功した。長尺でありながら、マリアの修道院生活からトラップ家への派遣、子どもたちとの心の交流、大佐とのロマンス、そしてナチスからの逃避行という物語の各フェーズが、寸分の隙もないテンポと演出によって繋ぎ合わされている。特筆すべきは、物語の核心である「愛と自由」が、終始、楽曲の持つエネルギーによって駆動されている点であり、フィクションと歴史的リアリティ、そして芸術的理想が見事に調和した、一つの映画芸術の到達点であると言える。その評価は、第38回アカデミー賞において、作品賞、監督賞を含む5部門を受賞したという事実によって裏打ちされている。
監督・演出・編集
ロバート・ワイズ監督の演出手腕は、本作で再び光彩を放った。彼は、前作『ウエストサイド物語』で見せたダイナミックな都市の描写とは対照的に、本作ではザルツブルクの自然の美しさを背景に、温かく情緒的な演出を採用している。オープニングの空撮から「サウンド・オブ・ミュージック」のシーンは、映画史に残る名場面であり、マリアの解放感と作品のテーマを一瞬で観客に伝える。ワイズの才能は、ミュージカルナンバーを単なる挿入歌としてではなく、物語の重要な推進力として機能させた点にある。編集を担当したウィリアム・H・レイノルズの功績も計り知れない。彼は、長尺でありながらも冗長さを一切感じさせないリズムを生み出し、特に「ドレミの歌」が自然の中で展開するシーンや、大佐とマリアのロマンスが進行する場面でのカット割りの的確さは、ワイズのビジョンを完璧に具現化している。この編集の技術的完成度は、アカデミー編集賞の受賞によって証明されている。
キャスティング・役者の演技
この映画の成功は、まさにキャスティングの妙に尽きる。主演、助演、そして子役に至るまで、配役が完璧な調和を保っている。
ジュリー・アンドリュース (マリア・フォン・トラップ)
彼女の存在なくして、この映画の成功はあり得なかった。アンドリュースが演じるマリアは、その天性の明るさと慈愛に満ちた包容力、そして何より透き通るような歌声によって、作品の魂そのものとなっている。修道院の規律に馴染めない奔放さから、トラップ家の子供たちに音楽と愛情を取り戻させる家庭教師、そして大佐の人生に光をもたらす女性へと変貌していく過程を、一点の曇りもない説得力をもって演じきっている。伸びやかな歌声は、ザルツブルクの雄大な風景と一体となり、マリアの心の開放感を観客に伝播させる。彼女の演技はアカデミー主演女優賞にノミネートされるなど、批評的にも大いに評価された。彼女は、ミュージカル映画における理想のヒロイン像を確立したと言えるだろう。
クリストファー・プラマー (ゲオルク・フォン・トラップ大佐)
プラマーは、厳格で権威主義的な軍人から、愛情深い父親、そしてマリアの伴侶へと変わる、最も難しい役柄を深く掘り下げて演じた。当初、作品自体に批判的であったとされる彼だが、その冷徹な外見の裏に潜む孤独と、マリアによって氷解されていく人間的な感情の機微を繊細に表現している。特に、子供たちが歌う「サウンド・オブ・ミュージック」を聴いて涙するシーンや、「エーデルワイス」を歌うシーンの静かなる情熱は、物語に確かな重みと説得力をもたらしている。彼の演技は、単なるロマンスの相手役以上の、作品のドラマ部分の支柱となっている。
ペギー・ウッド (修道院長)
修道院長役のペギー・ウッドは、作品の精神的な支柱として、短い出演時間の中で圧倒的な存在感を示した。マリアに対する深い理解と慈愛に満ちたまなざし、そしてその力強くも優しい歌声は、観客に安心感と希望を与える。終盤、マリアを勇気づける「すべての山に登れ(Climb Ev'ry Mountain)」を歌うシーンは、物語をサスペンスから希望へと転換させる重要な役割を果たしており、彼女の演技と歌唱は、アカデミー助演女優賞にノミネートされるにふさわしいものであった。
チャームラン・カー (リーズル・フォン・トラップ)
トラップ家の長女リーズルを演じたチャームラン・カーは、16歳という微妙な年頃の少女の揺れる感情を見事に表現した。家を出入りする電報配達人のロルフに恋心を抱く純粋な感情と、父親に対する複雑な反抗心、そしてマリアへの信頼へと至る変化がリアルに描かれている。「もうすぐ17歳(Sixteen Going on Seventeen)」での無邪気な歌唱とダンスは、青春の輝きそのものであり、彼女の存在が、フォン・トラップ家が抱える希望と未来を象徴している。
脚本・ストーリー
脚本家アーネスト・レーマンらは、実話に基づくマリア・フォン・トラップの回想録を、ミュージカルとしてのカタルシスと映画的スペクタクルが両立する物語へと見事に昇華させた。脚本の最大の功績は、家族の再生という普遍的なテーマに、オーストリア併合という歴史的な危機を重ね合わせた構成にある。これにより、個人的なドラマが、自由と抵抗というより大きなメッセージと結びつき、作品に奥行きを与えている。マリアと子供たちの心の壁が音楽によって取り払われる描写は、やや理想化されすぎているとの批判もあるが、そのシンプルで力強い叙情性が、世界中の観客の共感を呼ぶ核となっている。
映像・美術衣装
テッド・マッコードのカラー撮影は、ザルツブルクの息をのむような風景を、単なる背景ではなく、登場人物の感情を映し出す壮大な舞台として捉えている。アルプスの緑、空の青、そしてトラップ邸の荘厳な建築は、作品の解放感と美意識を決定づけた。美術監督ボリス・レヴェンと衣装デザイナーのドロシー・ジーキンスによる美術・衣装デザインは、細部に至るまで物語を補完している。特に、カーテンの生地で作られた子供たちの遊び心に満ちた衣装や、修道院と貴族の邸宅という対照的な空間デザインは、物語の世界観を強固に築き上げている。この映像美は、第38回アカデミー賞において、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞にノミネートされたことからも、その卓越性が伺える。
音楽
リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン2世による楽曲群は、もはやミュージカルの枠を超え、世界的なスタンダードとなっている。主題歌とも言える「サウンド・オブ・ミュージック(The Sound of Music)」をはじめ、「ドレミの歌(Do-Re-Mi)」、「私のお気に入り(My Favorite Things)」、「エーデルワイス(Edelweiss)」など、収録されたほぼ全てのナンバーが名曲であり、ストーリーとキャラクターの心情をシームレスに表現している。劇中での歌唱は、ジュリー・アンドリュースらキャスト自身によるものが中心であり、その歌声の素晴らしさが作品の感動を格段に高めている。映画音楽を担当したアーウィン・コスタルは、その卓越した編曲でアカデミー編曲賞を受賞しており、楽曲の魅力を最大限に引き出し、物語に命を吹き込んでいる。
規定の計算ルールに基づく最高点100.1を達成しました。
最終表記
作品[The Sound of Music]
主演
評価対象: ジュリー・アンドリュース
適用評価点: S10
助演
評価対象: クリストファー・プラマー他
適用評価点: S10
脚本・ストーリー
評価対象: アーネスト・レーマン、ジョージ・ハーリー、サリー・ベンソン
適用評価点: S10
撮影・映像
評価対象: テッド・マッコード
適用評価点: S10
美術・衣装
評価対象: ボリス・レヴェン (美術監督)、ドロシー・ジーキンス (衣装)
適用評価点: S10
音楽
評価対象: リチャード・ロジャース (作曲)、オスカー・ハマースタイン2世 (作詞)
適用評価点: S10
編集(減点)
評価対象: ウィリアム・H・レイノルズ
適用評価点: -0
監督(最終評価)
評価対象: ロバート・ワイズ
総合スコア:[ 100.1 ]
