劇場公開日 2023年6月3日

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「変幻するロープウェイ」コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5変幻するロープウェイ

2023年6月29日
iPhoneアプリから投稿

『少年、機関車に乗る』に引き続き、オブジェクトの巧みな運用が光った傑作だった。

ロープウェイという単純な乗り物はフドイナザーロフの遊び心の赴くままに幾度となくそのステレオタイプ的な在り方を解体され、再び構築される。あるときには交通機関、あるときには密輸船、またあるときには簡易なラブホテルに。人間との関わりを媒介にオブジェクトの新たな局面を次々と開拓していく華麗な手捌きに思わず陶酔してしまう。

ロケ地に関してもよくこんな場所を見つけてきたものだと感心する。急斜面にへばりつくように家屋が並び立つ街、屋根だか通路だか不明瞭な道、迷路のように入り組んだ路地、街を見渡せる丘の上の難民集落、そしてロープウェイ。

跳ねっ返りの青年たちの行き先不明の恋模様、そして彼らの住む街の不安定な政治情勢(=タジキスタン内戦?)は、同じく地に足の着かぬロープウェイとともにフラフラと揺れ動き、そのおぼつかなさが物語に豊穣なサスペンスをもたらす。終盤、戒厳令下の夜の街に飛び出した青年とそのガールフレンドがバスを乗り回すシーンは印象的だ。深い霧の中に完全に飲み込まれていくバスと、その背後を走る戦闘用車両とパトカー。いつ物語が哀しい寸断を迎えてもおかしくない緊張感があった。

街を去るガールフレンドを青年が追いかけるラストシーンは爽快だ。青年はガールフレンドを乗せて発車したロープウェイを地面から必死に追いかける。次いで車に乗り込んだ彼女。今度はそれを自転車で追いかける。噴水広場の前で繰り広げられる追走劇はなんとも微笑ましい。狙い澄ましたかのように放出が始まる噴水も素敵だ。

それはそうと劇中で幾度となく登場するサイコロ賭博に似たあの賭け事(数個の石を投げるやつ)は一体なんなんだろうか。何をもって勝敗を決するのかまったくわからなくて面白かった。

因果