「ダンスをする理由。 たとえ、主役の引き立て役でも、その他大勢の役でも、その舞台に立つということ。」コーラスライン とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
ダンスをする理由。 たとえ、主役の引き立て役でも、その他大勢の役でも、その舞台に立つということ。
なりたいものがある。やりたいものがある。
努力 × 才能 × 運 × 情熱。 どれかが欠けてもなしえない。
一時の栄光。そんなものにしがみついていられないほどの渇望。
落とされても、落とされても、チャレンジし続ける渇望。
「踊らせて!! プロとして。チャンスを与えて」その思い。
「私にはこれしかないんだ」その思い。
私は、自分がやりたいと思っていることに、ここまで情熱を傾けているのだろうか。
ダメだしされると、すぐにしぼむ熱意。
バルのように、夢を叶えるために必要なものを手に入れなきゃ・変わらなきゃとあがく思い。
と同時に、シーラのように、どこで見切りをつけるのか。熱意だけでは何ともならない、”適性”というものもある。
ザックのように、他の仕事が”適性”だったりもする。
その見極めが難しい。
そんな一人一人の物語・想いに心揺さぶられる。
オーディションを、今回ダメなら次をという考え方もできれば、一期一会の全てをかけた瞬間としても捉える、パラドックスの世界。
オーディションを、就職活動・やりたい仕事・ことへのエントリーと考えれば、彼らの想いは、私たちにつながる。
どうしてやりたいのか、これからどうなりたいのか。
数打ちゃ当たるのか、一つに想いのすべてを込めるのか。
「ONE」”その”人は素晴らしいというメッセージ。
これから舞台に出てくる主役を讃える楽曲で、踊っているのは、没個性のその他大勢の役。
でもなぜだろう。衣装の煌びやかさだけではなく、その群舞のパワーに押されてか、彼らこそが一人一人欠けてはならない人物のように思えてくる。
そして、この歌の後に出てくるのは、今までオーディションで力の限りに自分の想いをぶつけていた彼らなんじゃないかと想像してワクワクしてくる。そう、今じゃないけれど、いずれの未来には、なんてドキドキする。
コーラスライン。主役を引き立てるバック・名もなき人々・”取り換えのきく”と揶揄される歯車。
ではあるが、ラストのダンスを見れば、実は、主役等メインのメンバーよりも技量が必要なのではないだろうか。一糸乱れぬその動き。日本体育大学の集団行動やマーチングでもそうだが、一人の些細な失敗がすべてをぶち壊す。一人一人が完成されつつも、それが全の中に溶け込まなくてはならない。自分だけが目立ってもいけないし、手抜きが許されるわけではない。
主役等メインのメンバーは多少失敗しても、アドリブ等フォローができる。
ただ、その舞台・作品・仕事をけん引していくパワー・華がなければならない。その責任たるや半端ない。
どちらがすごいというわけではない。どちらも存在しているからこそ、目立たない人々の仕事がきちっと行われているからこそ、成り立つ社会。
その目立たない彼らが、キラキラ光る。
そんな彼らの群舞。夢の切符を手に入れた人も、今回はダメだった人も混ざってだんだんと増えていく。鏡の効果で無限に拡がっていく錯覚に陥る圧巻のフィナーレ。
最終オーディションに残ったのは、あれだけ個性豊かな人々だったのに、”一つ”に収束していく見事さ。
一人一人の個性・人種や親ガチャ等の背景は多彩で、それぞれの生き方を曲げないUSA。でも、力を合わせれば、一緒にこんなにエネルギッシュで素晴らしいものができるなんてことを読み取るのは、意味づけしすぎか。でも、そんな高揚感に包まれていく。
映画の中では、一人一人の取り上げ方の力点の置き方に多少不満はあるが、それでも一人ひとりの人生に共感して、一部でもどこか自分の人生に重ね合わせてしまう。
人生を、世の中を考えてしまう。
それでいて、教訓じみたことは全くない、最上級の歌・ダンスありのエンターテイメント。
☆ ☆ ☆
パンフレットを読むと、構成も監督も配役も、企画しては崩し、企画しては崩しで、出来上がった作品。
つい、監督がすべてを企画・実行して作ると思ってしまうが、いろいろな人の思惑が絡むんだなあ。
この映画は、ほとんどオーディション会場から出ないが、”映画”らしく、一人一人の語りを”実写”する企画もあったとか。この映画のスタイルにする、会場からは出ないと決めたのが、アッテンボロー監督。英断。おかげで、オーディションの緊張と、彼らの想いが交錯して、引き締まる。
映画オリジナル楽曲もあり。オリジナル楽曲の作曲は、舞台の音楽を作曲した人と同じハムリッシュ氏。ダンスパフォーマンスは、当時『フラッシュダンス』で注目された若き才能・ホーナディ氏。オリジナルを尊重しつつ、新しい息吹も取り入れる。パンフレットには、監督がボージェスさんと一緒に振り付けているシーンも載っていた。
舞台で鏡をうまく使った、舞台を演出・振り付けしたベネット氏が「ダンサーというのは、~自分の強み、弱点をよく知っていて、自分自身を隠すことには慣れていません。~鏡は嘘をつきませんから」と語っているというコラムがパンフレットに載っていた。映画でも、鏡を使っている。オーディション会場だからかなと思っていたけれど、深い意味があるんだな。
☆ ☆ ☆
何度でも観たい映画です。
(舞台は未見)