「スピルバーグの単純性の原点」激突! Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
スピルバーグの単純性の原点
総合30点 ( ストーリー:30点|キャスト:60点|演出:65点|ビジュアル:65点|音楽:60点 )
スピルバーグ作品といえどもまだ無名のころで予算も少ないだろうし大掛かりな質の高い映像の迫力もない。登場人物も実質一人だけ。ひたすら二台の車を描写するだけの単純作品で、しかも描かれるのは主人公側のことだけ。単純な話のわりに何かと説明不足で設定には不満が残る。だが彼の感じる不安や恐怖を描く演出は悪くない。
善悪を白黒はっきりつけて、正義の味方が悪いやつらをとにかくやっつける。そんな単純思考ないくつかのアメリカ映画に小さな頃から疑問を抱いていた。スピルバーグの無名時代の作品だが、ここでも単純に色分けされた、顔すらはっきりと表さない悪の存在に一方的に襲われ続けるという単純思考を見せ付ける。本作品に限らず私はどうにも彼のこのような単純性に納得がいかなくて彼の昔の作品もあまり好きではないのだが、「ジョーズ」をはじめとする彼の単純思考の原点がここに見て取れる。彼は昔からこんなに世の中を簡単に区分けする価値観を持っていたのだろうし、それが当時のアメリカの価値観を象徴しているようにも思えた。
単純映画を作って娯楽作品として興行収入的には大きな成功をしていても、質の高い映画を作る監督として必ずしも評価されずアカデミー賞とも長らく縁のなかったスピルバーグだったが、時代がたつとようやくアメリカもスピルバーグももっと複雑に物事を観る様になる。でもそれは「カラーパープル」「太陽の帝国」といくつかの試行錯誤を繰り返した後のことになる。彼の作り出す映像の迫力や演出力は認めつつも、「シンドラーのリスト」が出るまでは彼の作品にこの「激突」と同じような単純思考な価値観がずっとちらついていて、それがずっと評価を下げていた。私にとってはその点でスピルバーグの基本を知ることになった作品である。