「煽り運転絶対に許さないという強い意志を感じる」激突! といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
煽り運転絶対に許さないという強い意志を感じる
「謎のトラックに追われる」というざっくりとしたあらすじだけ知っている状態で鑑賞です。
昨今話題になっている「煽り運転」を題材にしたような作品で、50年近く前の作品ですが、ちょっぴり現代っぽさを感じます。ドラレコの発達で世間に認知されただけであって、煽り運転自体はずっと昔からあったんでしょうけど。映像は今の作品に比べれば少々粗いですが気になるほどではありません。良くも悪くも「70年代だから成立する作品」だったように感じます。現代であれば携帯電話やドラレコがあるので、劇中のような煽り運転されたら警察呼んでドラレコの映像見せて終わりです。現代リメイクができない独自性を持った良作だったと思います。
・・・・・・・・・
知人から借金を取り立てるためにカリフォルニアのハイウェイを走行していたデビッド・マン(デニス・ウィーバー)。前方を走っていた大型トラックを追い越したことをきっかけに、トラックはデビッドに嫌がらせを始める。だんだんとトラックの行動は過激になり、ついには命の危険を感じるまでに発展する。
・・・・・・・・・
私も普段車を使っているので、車間距離を異常に詰めてきたり危ない追い越しをしたりパッシングしたりするような煽り運転には何度か遭遇したことがあります。流石にこの映画ほどの危険な運転には出くわしたことはありませんが。「やばい煽り運転に出くわしちゃったらどうしよう」という想像は、日常的に自動車を運転している人は一度は考えたことがあるんじゃないでしょうか。
そんな想像を最悪の形で映像化してしまったのがこの作品です。
圧倒的な重量と圧倒的な馬力を誇る大型トラックが、デビッドの車に猛スピードで突っ込んでくるのです。デビッドが運転する車とは重量の差がありすぎるので、ぶつかられたらひとたまりもないのは容易に予想できます。何よりも、「このトラックの運転手なら殺人だってやりかねない」というのが序盤から丁寧に描写されているので、かなり恐怖を煽られます。煽り運転だけに。
先に述べましたが、この作品は「70年代のアメリカが舞台」という限定的な条件があってようやく成立する作品だったと思います。それがこの作品の素晴らしいところでもあり、現代の日本に住む人にはイマイチ理解できない部分があるなどの弱点でもあります。
もしこの作品が現代のアメリカを舞台にしているなら誰もが携帯電話を持っているのですぐに警察に通報されるでしょうし、70年代の日本が舞台であれば大型トラックに不利な細い道が多いので簡単にトラックを撒くこともできるし、何よりもあんな「見渡す限り荒れ地」みたいなシチュエーションが日本に存在しない。ちなみに現代の日本の大型トラックは速度抑制装置が付いているので150キロも出ないです。
「70年代のアメリカ」という、警察への連絡手段は固定電話しかなく、大型トラックでも余裕で走行できる幅の広い道路が多く、速度抑制装置が無いのでフルパワーで走行できる。こういうかなり限定的なシチュエーションだったからこそ成立できた稀有な作品です。リメイクは多分難しいでしょうね。
謎の大型トラックの非常に危険な運転や、いつまでもどこまでも追いかけまわしてくる異常な執拗さの恐怖感が丁寧に描かれていましたし、ラストシーンにはこの映画に相応しい迫力のある爽快な展開が用意されていますので非常に面白かったです。
不満点を挙げるならば、2点ほど。
一つ目は追いかけっこのシーンが同じような映像が続くので単調でつまらない部分です。トラックが色々と嫌がらせを仕掛けてくるシーンは見応えがありますが、「ただ追いかけてるだけ」のシーンは実に単調。同じ映像使いまわしでつまらないです。
二つ目は、あまりにも殺風景な荒れ果てた大地の連続に違和感を感じるところです。
主人公が道中でエンストしたスクールバスに遭遇するシーンがあるため、近くに学校や住宅があってもおかしくないのですが、途中に登場する建物といえばガソリンスタンドと小さなレストラン程度。学校や住宅に逃げ込み電話を借りて警察を呼ぶという展開になっても違和感が無いのですが、行けども行けども荒野が広がるロケーションには不自然さを感じました。私の考えすぎかもしれませんが。
ほんの些細な不満点はありましたが、満足の傑作です。
若かりしスピルバーグの作品を観たいなら、オススメです。