「明日の台湾や、平和憲法下の日本の運命が暗示されています いや世界の運命であるのだと思います」クンドゥン あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
明日の台湾や、平和憲法下の日本の運命が暗示されています いや世界の運命であるのだと思います
2021年の今こそ観なければならない映画です
特に日本人こそ観る必要があると思います
本作はチベットの法王ダライ・ラマ14世の物語
1939年の4歳から、1959年の24歳の中国に命を狙われチベットから脱出しインドに亡命するまでが描かれます
一体なぜチベットの映画をスコセッシ監督がとったのでしょうか?
なぜ1997年に?
なぜこの映画を21世紀に観なければならないのでしょうか?
クンドゥンとはチベット語で陛下の意味だそうです
ダライ・ラマは個人名ではなく、最高位の僧、法王を意味するチベット語とのことです
法王と言っても、チベットでは宗教だけの存在にとどまらず、国の象徴であり、国家と民族の統合の象徴そのものなのです
ダライ・ラマは日本の天皇陛下のように国民から強く慕われ崇敬されている存在であることが本作で繰り返し何度も強調されています
チベットそのものの存在なのです
チベット問題について全く知識がなくても大丈夫です
むしろ本作で知識を得ることが出来るでしょう
それでも取っつきにくいとお感じならば、エディ・マーフィーの1986年の映画「ゴールデンチャイルド」を肩慣らしにまずご覧になられることをお勧め致します
こちらはお馬鹿コメディのようでありながら、チベット問題の本質を教えてくれます
前半はそのダライ・ラマとチベットについての説明がなされます
大変にエキゾチックな国のように見えます
しかし生まれ変わりの化身というお話も、世界中のどの国でもそれぞれの宗教、伝説や神話、そして長い歴史を誇りにして大事にしていることは変わるものではないのです
チベットは仏教の国
非暴力が国是で1000年以上平和に暮らしていた国です
そのことこそがチベットが他の国と違う所であると教えてくれます
後半は、その平和の国が中国に手もなく侵略されてしまいます
非暴力が国是の国ですから自衛戦争すらできる国ではなかったのです
平和的に話合いで解決しようとするのですが、その結果チベットがどうなってしまったかが描かれます
中国によるチベット侵攻と併合の過程で、チベット全域で120万人との犠牲者が出ているのです
ダライ・ラマが見た悪夢は正夢だったのです
中国のしてきたことの恐怖の実態は、チベット亡命政府だけでなく、国際司法裁判所、アムネスティ、国連人権委員会などが数多く報告を出しています
スコセッシ監督は、現在もなおこの人権蹂躙が行われていることを広く世界に告発しようとするものなのです
そして本作が公開された1997年は一体どんな年であったのか?
この年香港が、中国に返還された年であるのです
チベットの現状を見て見ぬふりをすれば、香港もそうなるであろう
その危機感がスコセッシ監督に本作を撮らせたのだと思います
本作公開からすでに24年が経ちました
しかしなんら国際社会はチベットに手助けする事もなく2021年になっているのです
今ではイスラム教の国だったウイグルまでもがチベットのようにされているのです
ウイグルジェノサイドと言われているほどです
そして香港はご存知の通りです
一国二制度の建て前は反古にされ、民主主義の灯火は消されてしまい、抵抗した人々は弾圧されていったのです
劇中、複雑で精緻な美しい曼荼羅の大きな砂絵が写されます
少しずつ長い時間をかけて、その民族の文化、宗教、長い歴史が育んでだんだんと大きく複雑に描いていった芸術品です
でも砂絵ですから極めて脆いものです
その砂絵を暴力的に、何の敬意もなく、ためらいもなく、芸術とも認めずに破壊する手が写されます
砂絵はもちろんチベット
壊す手指は中国です
そして昨日の香港、明日の台湾や、平和憲法下の日本の運命が暗示されています
いや世界の運命であるのだと思います
見て見ぬふりを続けてきたつけが今や巨大に膨れ上がって世界を滅ぼしてしまうような存在にまで育ててしまったのです
総選挙が終わり、日本国民もようやく危機感を覚えつつあることが伺える結果になりました
劇中、人民服姿の毛沢東が登場します
まるで大悪魔ルシファーかヒトラーのように
そして今年中国共産党創立100周年の式典に、習近平主席がただ一人人民服をまとって登場したのです
あまりの恐ろしさに慄然としました
今こそ本作を観るべき時です
チベットは明日の台湾、否日本なのです
あわせて、本作と同じ1997年に公開された「セブン・イヤーズ・イン・・チベット」もご覧になられることをお勧め致します
ダライ・ラマ14世は、2021年現在86歳
未だに自分の国チベットには戻れないのです、