「ホアキン・フェニックスは笑わない」グラディエーター ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
ホアキン・フェニックスは笑わない
「我が名はマキシマス・メレディアス。北方軍総司令官、フェリキス隊の将軍。真の皇帝マルクス・アウレリウスの僕。息子を殺された父親。妻を殺された夫。今世か来世でその復讐を果たす」
西暦180年。ローマ帝国の将軍マキシマス(演:ラッセル・クロウ)はゲルマニア平定を果たす。哲人皇帝マルクス・アウレリウス(演:リチャード・ハリス)は自らの死期を悟りマキシマスにローマ帝国を託すが、次期皇帝を狙うアウレリウスの実子コモドゥス(演:ホアキン・フェニックス)はアウレリウスを殺害、マキシマスは叛逆者として軍を追放される。コモドゥスの手先によって妻も子も殺され失意のマキシマスは奴隷として興行師プロキシモ(演:オリヴァー・リード)に買い取られる。"剣闘士(グラディエーター)"として名を上げたマキシマスはローマに戻り、コモドゥスへの復讐を誓う。
顔の彫りがとても深い古代ローマ帝国市民が風呂と同じくらいの熱狂したもの、それが「パンと見世物」、つまりは剣闘士による殺し合いだった。ストーリーに多少の稚拙さはあるものの、映像美は圧巻。特にホアキン・フェニックスに対する光と影の使い分けは「ゴッドファーザー」を彷彿とさせる。円形闘技場(コロッセオ)を含むローマの栄華を余すところなく描き出しており、これを目にすると「ナポレオン」(2023年)は残念ながら「どうしちゃったの?」感が否めない。
屈折したホアキン・フェニックスの複雑怪奇さに対してラッセル・クロウの表現は素直と言っていいくらいストレート。だがこのストレートさを表現するためにラッセル・クロウもかなり丹念にマキシマスの描写を作り上げている。戦いを前にして地面に膝をつく、砂を握る、そして手に馴染ませる。いかなる場面でもマキシマスはこの動作を欠かさない。そして哀しみをたたえた上目遣い...「マスター・アンド・コマンダー」(2003)もそうだが、ラッセル・クロウは目で語る男、口数は少なくていい(し、ついでに歌もいらないかな)。
それにしても身体がバラバラになるのは当たり前、死人が大勢出るのも当たり前、現代よりも死が身近にあったためか、そんな光景をパンを食い酒の肴にしていたローマ人。やはり人間も生物で、根源にあるのは愛ではなく闘争なのだろう。
「グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声」ではコモドゥスの甥ルシアスが主人公となる。マキシマスの質実剛健さが継承されているかどうか、期待と不安が入り混じりながら、はるか麦畑の彼方にローマの夢を見た。