「真のローマの夢」グラディエーター Moiさんの映画レビュー(感想・評価)
真のローマの夢
感想
西暦180年
時のローマ帝国皇帝マルクス・アウレリウス(正史上、五賢帝時代最後の皇帝)の時代。地中海を中心に南はアフリカから北はブリタニアの北限まで達して領土は最大版図を実現する。その最終の仕上げとなるゲルマニア戦役にて蛮族ゲルマン民族の勢力を制することによりその目的は達成される事になる。
組織的且つ整然とした戦闘形態を駆使し、さらに機転の効いた敵の裏を斯く戦略を策定実行し連戦連勝の快進撃を永年に渡り続けてきた知略勇猛の誉れ高きアエリアス・マキシマス将軍は自身最後の戦いと決めた戦闘でゲルマンの中心部隊を殲滅することに成功。督戦していた皇帝アウレリウスはその勝利に最高の賛辞を送る。
勝利の翌日、マキシマスはアウレリウス皇帝に呼び出される。皇帝は「自分の今までの時代を振り返り即位して30年の内25年の間戦いに明け暮れ現領土を築いてきた。自分が即位して成してきた事に何か一つ意義を持たせたい。後世の歴史的評価も得たいとして築き上げたこの世界を自分が亡くなった後もこのローマを威厳を以って平和裏に治めていきたい。それにはマキシマスの存在が必要不可欠である。ローマの実権をローマ市民の手に再び戻し、蔓延る腐敗を浄化して欲しい。是非次期の皇帝になって欲しい。」と切望する。話を聞き丁寧に固辞するマキシマス。皇帝の息子であるコモドゥスを推挙すると皇帝自ら息子は歪んだ心を持つ者として絶対に権力の座には据えてはいけないとした。返答に日没迄の猶予を乞い退室するマキシマス。
神に祈るマキシマス。これから未来への自分の行くべき道について。故郷の家族の幸せ。家族こそ自分の生きる道。先祖を敬い、その教えに恥じることのない生き方を貫き通せるように。そこにはヒスパニアの故郷にいる妻子に会い、再会と生きている喜びを分かち合いたいと唯切望する心優しき一人の男の姿があった。祈りの後、侍従のキケロを呼び止め、「お前は仕事が苦に感じる時があるか?」と質問する。キケロは「苦にならない時もありますが、大抵の事はこれは義務なのだ。と言い聞かせています。」と返答。マキシマスは「お互い故郷には戻れまい。」と呟いた。
アウレリウスが皇帝の座をマキシマスに譲る事を知ったコモドゥスは嘆き悲しむ。アウレリウスは皇帝の器にないような育て方をした自分がいけないのだとし自分の決断を許して欲しいとコモドゥスに伝える。コモドゥスは弱っている父親を抱きしめるように口を塞ぎ窒息させてアウレリウスを殺害してしまう。
コモドゥスがアウレリウスの天寿を全うした逝去と見せかけて殺害を実行した事はマキシマスも知るところとなる。マキシマスは殺害された事をすぐに察知しコモドゥスに平伏す事なく軍を掌握しようと動きだすが、コモドゥスは近衛兵をマキシマスに差し向け拘束し命を断とうとする。しかし百戦錬磨のマキシマスにとっては大した問題ではなかった。瞬間的に自身の拘束を解き近衛兵を倒し馬2頭を引き連れ妻子を想い助ける為に故郷のヒスパニア・ティヒロの丘を目指して逃走を図る。帝国の反逆者の汚名を着る事になってしまったマキシマス。
追手を振り切り必死の想いでティヒロの丘に辿り着くマキシマス。しかし既にコモドゥスの兵により妻と子は拘束され、焼かれ吊るされ晒し者になっていた。最愛の生きる拠り処であった家族を亡くしてしまった悲しみと絶望が襲いかかる。いくら泣いても二人は戻って来ない。もはや心が崩壊し何も無くなり茫然自失し二人の墓の前で気を失うように倒れたまま動けなくなってしまう。
どのくらいの時間が経ったのであろう。マキシマスが目を覚ますと馬車に乗せられている。見知らぬ異邦人が話し掛ける。奴隷として売られる為に拘束された事に気がつく。馬車は南スペイン・ズッカバールに移動、そこでグラディエーターのプロモーターであるプロキシモに出会う。生きる気力のないマキシマスは闘いには全く興味を示さず流れのままに死のうとする。しかしコロシアムに入れられ剣闘が始まると本能的に身体が反応し相手を次々と倒していく。相手を殺し倒せば斃すほど喝采を浴びるのだ。退廃し低俗な心で剣闘を観戦する人間心理を心から批判し、馬鹿にするマキシマス。プロキシモはそんなマキシマスに興味を抱いていく。プロキシモもかつてはグラディエーターでありマルクス・アウレリウスにより自由の身を授かった奴隷であったのだ。人の繋がりとは不思議なものだと感じるマキシマス。
プロキシモが主催するグラディエーター血の戦いは帝国全土を巡業していく。マキシマスはスペイン人というニックネームで有名を馳せていく。ローマではコロッセオと呼ばれる巨大な闘技場でアウレリウス先帝が禁制にしていた剣闘をコモドゥスの主催で再び開催するようになる。プロキシモはローマに乗り込みプロモーターとして名を揚げようとする。
家族の惨劇から5年を経て帝都ローマにグラディエーターとして戻る事になるマキシマス。いつしか復讐の鬼と化しプロキシモの指導による剣闘会での壮絶な闘いを、数々の歴戦で得た経験値と機敏な判断力、優れた統率指揮能力を活かして勝利を繰り返しローマの大観衆と最終的にコモドゥスにも生存している事を知らしめる事となる。「将軍!」と大衆に持て囃されるマキシマス。更に剣闘技を通して抹殺を図ろうとするコモドゥス。果たしてマキシマスの運命は如何に。そしてローマの秩序はアウレリウスが理想としたかつての正しさを取り戻す事が出来るのかー。
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映像・脚本・演出◎
全編にわたり監督の持つセンスと作品意図が充分にスタッフに理解された上で内容が反映され創られている。
ラスト約10分のコモドゥスとの直接対決に於いて展開に継ぐ驚きの大衆心理を含める人間の極限の心理展開によりマキシマスの軍人としての国家への忠誠心、アウレリウスが理想とした国家の在り方を指導者として推める事、そして一個人としての家族への愛情心。全てが本心からの行動であり本物であった事をその場にいた者達が知り得る事になり感動の涙を誘い観る者の心を掴んで離さない。マキシマスよ安らかに眠れ!と心の中で叫んでいる自分がいた。
配役
マキシマス役ラッセル・クロウの演技が兎に角素晴らしい。コモドゥス役ホアキン・フェニックスの人間性の歪んだ異常性格を表現した演技も特筆に値する。◎
⭐️4.5