「「この世の人間は影と塵」」グラディエーター すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「この世の人間は影と塵」
〇作品全体
「この世の人間は影と塵」…興行師・プロキシモのセリフだ。必ず訪れる死の前に、何を残すことができるのか。主人公・マキシマスが妻と子を失ってからの、マキシマスにとっての「影と塵」の時代は復讐心から始まるが、影と塵に隠れたマキシマスの強さと実直さに人々が魅せられ、やがて大きな時代の渦を作っていく。ストーリーはシンプルだが、それを彩るローマの街、人々の声の厚み、マキシマスを取り巻く協力者たち…様々な要素が、マキシマスが残したローマ帝国への想いの意味付けを強化し、マキシマスが失ったものに対する無力さと対比されていた。
〇カメラワークとか
・宮殿内の煌びやかで空気の澄んだ世界と、塵や土にまみれたマキシマスが過ごす世界の対比が印象的。コモドゥスが作る顔の影は揺れることがなく、そこがまた恐ろしさをも内包していた。一方でマキシマスは檻や柵によって不規則に影を作る。血を求める人々の熱量のようなカオスにも似た影。
・回り込みカットが多い。最初の剣闘場、コロッセオ。いずれも人々が重ねる歓声に包まれるマキシマスを映したカット。2022年に見ると少し古臭さを感じるカットだけど、それ以上に声の重厚感がすごかった。
最初のゲルマニアとの戦争シーンも、その規模、というよりも声の重厚感に圧倒された。
・アクションは少し見づらい。ブレカットの多用。アクションそのものよりも斬られた後の傷とか、そういうグロテスクなインパクトで勝負していたような気がする。
・ベストカットはマキシマスが吊るされた妻と子を見つけるカット。自宅入口にたたずむマキシマスからTBして妻と子の浮いた足を映す。2年と264日以上かけてようやく帰ってきたマキシマス、しかしそこには変わり果てた妻と子…という2つの「映したいもの」を効果的に1カットに収めていた。
〇その他
・実力隠しの主人公の持つカタルシスがもっと欲しかった。アフリカの地で名を挙げていくマキシマスは結構あっさりだったけど、その過程に元配下の兵士がいてマキシマスを慕うシーンがあったりとか、将軍・マキシマスの偉大さをもっと感じていたかったな、と。
・マキシマスが通る道で「将軍」と敬服の声をかけられたり、「スペイン人」と声を掛けられるシーンがすごくかっこいい。人を魅せられる才覚をこういうシーンから印象付けてくれる。
・コロッセオに出てきた虎が可愛かった。マキシマスと激しい戦いをした直後に、コモドゥスとそれを取り囲む親衛隊がきっちり並んでる脇でちゃんとお座りの姿勢で話を聞いてるのがシュール。
舞台や世界観の作りこみも魅力的だったけど、なによりこの作品は声の重厚感が良かった。
ルシッラのセリフに「ローマは人々によって動いている」みたいなセリフがあったり、プロキシモが「皇帝に会いたければ人々を味方につけろ」というようなセリフがあったけど、人々の声の重厚感がその説得力になってた。
そういう意味でも映画館で見て良かった作品だった。