劇場公開日 2024年11月29日

「移りゆく陰鬱な時代の空気を投影した傑作」カンバセーション…盗聴… 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5移りゆく陰鬱な時代の空気を投影した傑作

2024年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

五感を研ぎ澄ませる作品は面白い。人は映画を目と心で楽しむものだが、本作の主人公コールときたら最初のシーンからずっと耳をそば立てている。すなわち、耳を通じて集積されていく事実とその推察についての特殊なストーリー。アントニオーニの『欲望』に触発されて脚本が書かれた点からも、何か新たな語り口のスタイルを追い求めた果てに生まれた実験作であることが分かるし、さらには作り手の意図を超え、偶然にもウォーターゲート事件と重なる内容をはらんでいるのも特筆すべきところ。取り壊しの続く自宅周辺や崩壊していく自室も含めて、陰鬱で重々しい時代の空気を投影した作品と言えそうだ。事態に翻弄されプロフェッショナリズムを崩壊させゆくジーン・ハックマンの演技も抜群に素晴らしい。もしこの映画のラストでフラストレーションが溜まったなら、本作のエッセンスを生かした『エネミー・オブ・アメリカ』で憂鬱を気持ちよく吹き飛ばしたいところ。

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牛津厚信