「コッポラ監督が練り上げた一級のサスペンス」カンバセーション…盗聴… Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
コッポラ監督が練り上げた一級のサスペンス
主人公である盗聴屋の男は、仕事においては妥協を許さないプロ中のプロだ。 盗聴のターゲットとなる人物に対しては一切の関心を捨て、依頼された案件を完璧に遂行することだけに専念する。同業者からも一目置かれるやり手なのだが、私生活では心を閉ざし、恋人にさえ自分の内面を明かさない。
物語の中盤までには、この男が高すぎる職業意識を持つ一方で、融通のきかない生真面目な堅物であることが見えてくる。
鍵となるのは、そんな主人公の男が心の奥に封印していた「罪悪感」である。 実は、他人の人生を傷つける盗聴という仕事に罪悪感を持っており、葛藤しているのだ。 教会での懺悔のシーンが、男の信仰心の深さと宗教的な道徳観の強さ、そして苦しみの深さを表している。
そのため、浮気調査で盗聴した女と浮気相手との会話の内容に、「殺人」という言葉が出てきた時、封印していた道徳心が頭をもたげる。 「もしこのまま本当に殺人が起こったら…それはマズイ…」という考えに憑りつかれるのだ。 そしてついに、それまでは絶対に立ち入ることのなかった依頼案件の内部にまで踏み込んでしまう。これがサスペンスの発露となる。
最初は、男の過剰な妄想にも思えた「殺人の疑念」。 しかし、それが妄想ではないことを裏付けるような出来事が次々に起こり、ついには、殺人が実際に起こってしまう。 主人公の男が極限の精神状態にまで追い込まれ、精神が破綻してしまうラストシーンまでがドラマの佳境で、息が詰まるような緊張感が続く。コッポラ独自のサスペンス演出の見せ場だ。
登場人物たちの思惑が錯綜しながら展開していく推理サスペンスではあるが、 「盗聴屋の男の不安定な心理」 が主軸になっているところが、ありきたりなサスペンスとは一味違ったリアル感を醸し出す。
複雑化した現代社会に生きる誰もが抱える、罪悪感という苦しみ。 誰もがそこを理解できるからこそ、主人公の男の心理に同調し、サスペンスを自分事のように追体験してしまうのではないだろうか。
どの作品でも、どんな役でも、絶対的な存在感を示すジーン・ハックマンが、この作品でも高いレベルの演技を魅せてくれる。 コッポラ監督作品では、珍しいサスペンスである。