「静かな人間賛歌」ガタカ コレッキャ・ナイデスさんの映画レビュー(感想・評価)
静かな人間賛歌
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本作は、遺伝子操作によって“理想的な才能”を持つ人間が選別される近未来を舞台にしたSF映画です。主人公ヴィンセントは、遺伝的な劣等を理由に夢を奪われながらも、宇宙飛行士になるという強い意志を抱き続ける。夢を持つことが罪であり、挑戦することさえ許されない世界で、彼があがき続ける姿は人間賛歌そのものです。
世界を敵に回してでも夢を追い続ける彼のひたむきさは、心を強く揺さぶります。やがてその熱に絆されたかのように、周囲の人々が少しずつ彼を支え始める展開が印象的でした。
最初は一人で戦っていたヴィンセントが、気づけば周囲の理解と後押しを得て、宇宙へ旅立っていく。その過程は、努力が人の心を動かす瞬間を静かに描いた名シーンの連続です。
特に印象的だったのは、終盤の”沖へ向かって泳ぐチキンレース”。
「どこまで行く気だ!」
「沖を超えた方が近いぞ!全力を出してどこまでも泳いだ!戻る事なんて考えもしなかった!」
という会話には、彼が人生を賭して挑んできたすべてが凝縮されているようでした。戻る余力を残さず、ただ前に進む——ヴィンセントの生き方を象徴するシーンとして、強烈に心に残ります。
大作SFにありがちな派手な映像こそありませんが、淡い照明、遺伝子を連想させるミニマルな美術、そして物悲しい音楽が完璧にマッチし、独特の世界観を形成しています。予算の少なさを感じさせないどころか、静かな映像美が物語のテーマを引き立てていると言ってもいいでしょう。
『ガタカ』は、才能よりも意志が人を未来へ連れていくという、普遍的で力強いメッセージを放つ作品となっています。静かで熱い傑作です。
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