「It is not in the stars to hold our destiny but in ourselves. オシャレ映画の皮を被ったど根性映画だこれっ!!」ガタカ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
It is not in the stars to hold our destiny but in ourselves. オシャレ映画の皮を被ったど根性映画だこれっ!!
遺伝子工学が発達した近未来を舞台に、宇宙開発企業「ガタカ」で発生した殺人事件と、それに翻弄される“不適正者“の青年ヴィンセントの運命が描かれるSFサスペンス。
監督/脚本は名匠アンドリュー・ニコル。本作は彼のデビュー作である。
自然妊娠で生まれ、“不適正者“と蔑まれながらも宇宙飛行士を目指す青年ヴィンセント・フリーマンを演じるのは『いまを生きる』『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』のイーサン・ホーク。
ヴィンセントの同僚、アイリーン・カッシーニを演じるのは『パルプ・フィクション』『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』の、名優ユマ・サーマン。
ヴィンセントがなりすます元水泳選手の“適性者“、ジェローム・ユージーン・モローを演じるのは、当時は舞台俳優として活躍していた、名優ジュード・ロウ。
1996年7月、クローン羊のドリーが誕生したというニュースが世界を震撼させた。「生命の複製」という神の御業とも言える領域にまで到達した遺伝子工学を技術革新だと受け入れる者もいれば、倫理観を欠いた所業だと非難する者もおり、その議論は現在でも止むことはない。
ドリーの衝撃から1年後に公開された本作。遺伝子操作について最も注目が集まっていた時期なだけに、当時はさぞセンセーショナルに受け止められたのではないだろうか。
物語の舞台となる宇宙開発企業「ガタカ(Gattaca)」。この社名はDNAを構成する4つの塩基「グアニン(G)「アデニン(A)」「チミン(T)」」「シトシン(C)」に由来している。
『ガタカ』なんてタイトルを聞くと、『アメリ』(2001)みたいなシャレオツなヨーロッパ映画か何かかと勘違いしてしまう。実際、ポーランド出身の撮影監督、スワヴォミール・イジャックとオランダ出身の美術デザイナー、ヤン・ロールフスの作り出す映像美は非常に洗練されており、ハリウッド製のSF映画というよりはむしろ欧州のアート映画にその手触りは近い。
その2人に合わせ、ティム・バートンとの仕事で知られる衣装デザイナー、コリーン・アトウッドが手がけるシックなファッションがこの映画の印象を決定づける。近未来的かつ60年代的、無機質かつ退廃的な雰囲気のルック。衣服、建築物、車など、全てに行き届いたその洒脱さが本作最大の魅力であり、ただ映像をダラダラと眺めているだけでも不思議な幸福感を与えてくれる。
遺伝子工学の発展により先鋭化される優生学的思想という題材は、イーロン・マスクやピーター・ティールといった加速主義者が権勢を振るう現代社会においては、もはや絵空事とは言い切れない。数年後には現実になっていてもおかしくはない、この生々しいリアリティには背筋が凍るような思いがした。時代を先取りするその先見性はさすがアンドリュー・ニコルといったところか。この堂々たる映画が彼のデビュー作だというのだから驚かされる。この男、やはり出来る。
遺伝子を扱った難しそうなテーマに加え、バキバキにクールな映像。一見高尚すぎて取っ付きにくい作品のようにも思われるが、その内容は清々しいまでに人間くさい。強固な意志と妥協なき努力があれば全ての壁を乗り越えられるという、昭和スポ根漫画も真っ青な見事なまでのど根性映画である。
とにかく「根性根性ど根性」が心情の作品なので、突然遠泳バトルが始まったりする。ど近眼なのに裸眼で道路を渡ったりする。オシャレな面をしておきながら過剰なまでの頑張りシーンが続々と出てくるのでつい吹き出してしまった。こういうところが結構可愛いんですよねこの映画は。
こういうど根性映画は大好物!人間讃歌は「勇気」の讃歌ッ!人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ!!…まぁ正直、殺人事件の顛末のテキトーさとか、心臓病の伏線をガン無視しちゃったとことか、なんで心臓に欠点を持つアイリーンがガタカに入社出来たのかとか、波打ち際をバックに行われるベッドシーンのダサさとか、気になるところは多いのだが、そこもまたこの映画のチャーミングなところだと思う。こんだけヴィンセントが頑張ってんだから、細かいところには目をつぶってあげましょう!
ただ一つ気になるのはユージーンの最期。彼を自殺させる必要は本当にあったのだろうか?
終盤、不随になった下半身を引きづりながら懸命に螺旋階段を登るユージーン。この螺旋階段はDNAの比喩に他ならない訳で、ここは人間は遺伝子の優劣とは関係なく、自分の頑張りによって底辺から這い上がる事が出来るという事を端的に描いた名シーンである。
そんな自分の運命に打ち克った彼が、何故自死という最後を選んだのか、そこがわからない。根性根性ど根性の映画なのだから、ユージーンにも人生を諦める事なく愚直に生き抜いて欲しかった。ここがこの映画唯一の不満ポイントである。…てか、そもそもこのくらい遺伝子工学が進んでいるのであれば半身不随くらい治療出来そうなものだけれど…なんて言うのは野暮だよね。
有名な賞を取った訳でも、ヒットした訳でもないのに未だに存在感を放ち続ける本作。こういうのをカルト映画というのだろう。確かに、何度も観返したくなる不思議な魅力を持った作品である。うーん、好きだなぁこの映画…。
余談だが、本作の共演を機にイーサン・ホークとユマ・サーマンは結婚っ!🎉…まぁ離婚しちゃうんだけど。
2人の娘であるマヤ・ホークは『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2019-)や『インサイド・ヘッド2』(2024)などに出演しており、着実に次世代スターへの階段を駆け上がっている。彼女を見ていると、やはり遺伝子というのは軽視出来ないなぁ…とこの映画のメッセージとは真逆の事を考えてしまうのであった。
こんばんは〜。共感ありがとうございます😊
けっこう好きな作品です。
又観たくなりました
ドリーの事やカダカの由来など、初めて知りました
ありがとうございます😊