「網の目に風たまらず」風が吹くとき uzさんの映画レビュー(感想・評価)
網の目に風たまらず
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リバイバル上映の吹替版にて鑑賞。
粗筋に「核戦争の恐怖を描いた」とあるが、描かれていたのは“無知”と“盲信”の恐ろしさだ。
ジムは政府の言う通りにすれば大丈夫と信じ、ヒルダは楽観的を通り越して思考すらしない。
それだけであれば皮肉な滑稽劇として観られるが、正直に言ってこのあたりの描き方には疑問を感じる。
ジムは世界情勢を気にして新聞にも目を通すし、何より『ヒロシマ』に言及しているのだ。
その上であの知見ということなのかもしれないが、些か行き過ぎではないか。
おまけに、防空壕を秘密基地扱いしたことなど過去の戦争を楽しい思い出のように語り出す。
子供ならまだしも、老齢の夫婦がというのはサスガに受け入れ難かった。
とはいえ、仲睦まじい夫婦が放射能に侵されていく様は堪えるものがある。
段階的な描写と、その中でも変わらぬ声色で励まそうとするジム、という夫婦愛としては見るものがある。
逆に言えば、夫婦しか描かれていないとも言える。
その姿は被爆者の一例であり、“数”という核の恐ろしさの一面は良くも悪くも一切描かれない。
当時なら別だろうが、人並みに同様の題材に触れてきた身としては、新しいものはなかったかな。
滑らかな動きのみならず、実写と組み合わせる手法など、40年近く前とは思えない映像は見事。
ただ、綿毛からの幻想や、3〜5文字の機構を羅列するなど余計な部分も目立つ。
局所的な描き方をするのであれば、もっと深く刺さるようなものを期待してしまった。
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