劇場公開日 2021年5月7日

「作品の良し悪しを超越した、ダンディズムとロマンティシズムの究極作」カサブランカ sugar breadさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 作品の良し悪しを超越した、ダンディズムとロマンティシズムの究極作

2025年11月12日
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鑑賞方法:映画館

本作は過去からすでに多く語られているので、今回少し視点を変えてみます。

3人の女性が登場します。
まず、フランス人のイヴォンヌ。ボギー扮するリックに振られた後ナチの軍人の取巻きに身をやつします。売国奴と言われかねませんが、酒場でフランス国歌を合唱する同胞達に涙ながらに加わります。愛国心を決して捨てていなかった彼女の矜持を感じさせるいいシーンでした。ちなみに演じるはマドレーヌ・ルボーは、カジノディーラー役のマルセル・ダリオと当時実生活で夫婦だったようです。

2人目はカサブランカから脱出したいブルガリア人の若妻アニーナ。金を工面するために夫はカジノにチャレンジするも上手くいきません。彼女はルノー署長のいいなりになる覚悟を決めます。結局はリックに助けられ事なきを得るのですが、女の度胸を感じさせる場面でした。

そしてバーグマン扮するイルザ。ピアノ奏者サムとの再会のシーンで「あなたは悪運をもたらす」みたいな事を言われて、一瞬ムッとします。すぐに柔和な表情に戻りますが、サムはなかなか鋭かったのです。
パリ時代夫ラズロがいるのになぜリックと恋に落ち、そして突然消えたのか?観客が納得しうる正当な理由が後でイルザの口から語られます。リックを心から愛していたのも偽りない真実でしょう。
では今はどうなのか?再び究極の選択が訪れます。愛するリックなのか、同じく愛する夫なのか。揺れ動くルイザは「私には決められない。リックあなたが決めて」と言います。
先の2人に比べ矜持や覚悟はないのかと思いましたが、ここはバーグマンだから許されてしまうのです。

身も蓋もない言い方になってしまいますが、バーグマンの究極の美しさとロマンスの横溢する描写が、善悪もモラルもルッキズムも全てを根こそぎ覆してしまう。
まさに映画の魔力を感じさせる作品なのです。

sugar bread
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