劇場公開日 1971年8月7日

「1942年の忘れられない夏を追憶するノスタルジーを感傷的に美しく描いたマリガン監督の秀作」おもいでの夏(1971) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.01942年の忘れられない夏を追憶するノスタルジーを感傷的に美しく描いたマリガン監督の秀作

2022年2月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館、TV地上波

古くはフランス映画のレイモン・ラディゲ原作の「肉体の悪魔」やシドニー=ガブリエル・コレット原作の「青い麦」に描かれた、年上の女性に抱く少年の憧憬と性的好奇心を扱った青春映画。特に「青い麦」とはひと夏の経験のお話で類似点が多く、ストーリーとして特に際立つ劇的な展開はない。それは世界共通の少年が経験する未熟で何処か滑稽な男の成長過程の一時に過ぎず、人に語るほど特別なドラマではない。しかし、このアメリカ映画は、そのフランスの恋愛映画の厳しさに対して、主人公のモノローグで語られるノスタルジックなリリシズムが、淡いパステル調の美しい映像によって表現されている。そんな普遍性をもつ男の不器用な初体験を扱っていながら、名手ロバート・サーティースの撮影が回顧調の映像美を極めていて、同じような経験を持つ男たちの共鳴を誘う。想い出は美化され懐かしければ懐かしいほど、青春期のあの充足感と喪失感は何だったんだろうと、自分の人生を省みる大人になってしまったことに気付くだろう。そんな主人公ハーミーを演じるゲーリー・グライムスの何処にでも居そうなごく普通の優等生タイプの平凡さが、この美しくも弱々しさを兼ねた映画の世界観にマッチしている。そして何より、そんな少年を夢中にさせる人妻ドロシーを演じたジェニファー・オニールの清涼感のある美しさと、しなやかな身体の線を持て余したような仕草がコケティッシュな大人の魅力に溢れていて、羨望の想いで見つめてしまうのだ。
舞台となる1942年のニューイングランド地方のナンタケット島は戦火を遠く離れて、出兵する夫を持つドロシー以外に第二次世界大戦の影響は殆どなく、穏やかな潮風と波の音に囲まれた避暑地の恵まれた環境に、ハーミーと同じ思春期を迎えたオシーとベンジーの友だちも加わり、アメリカ映画らしいユーモア溢れる青春スケッチが展開する。また些細な事だが、海岸でマシュマロを焼くシーンで初めてその食べ方を知ったのも印象に残る。後半のドロシーとハーミーを繊細にして清潔に描いたマリガン監督の演出もいい。このユーモアとリリシズムのバランスと転化が素晴らしい。

ハーマン・ローチャー自ら回顧録の原作を脚本にした故、美化されたストーリーではあるだろう。それを承知で監督のロバート・マリガンは演出している。サーティースの奇麗な映像に甘酸っぱい青春の記憶を染める様に、ある程度距離を置いて映画作品にしたマリガン監督の堅実さが出ていると思う。そして、この美しく切ない世界観に更に情感を加えて映像と溶け込んだミシェル・ルグランの音楽がやはり素晴らしい。映画も音楽も美しくなくてはならない理想の一つとして、大切にしたいアメリカ映画の一本になるだろう。

  1977年 1月29日  池袋文芸坐

ロバート・マリガンの映画は、「アラバマ物語」「マンハッタン物語」「下り階段をのぼれ」「悪を呼ぶ少年」と観てきたが、この作品と「アラバマ物語」が代表作になると思う。とても意外だったのは、尊敬する映画批評家飯島正氏が、1971年のベストテンに挙げていたことだった。読者選出(男女共)のベストテンに選ばれるのは解るが、これは嬉しい驚きだった。この年のキネマ旬報ベストテン外で私のお気に入り映画は、この「おもいでの夏」とロバート・ワイズ監督の「アンドロメダ...」デ・シーカ監督の「悲しみの青春」、そしてエリオ・ペトリ監督の「殺人捜査」になる。
ついでに個人的な1971年のベストテンを選ぶと、
①ベニスに死す②悲しみの青春③ライアンの娘④ファイブ・イージー・ピーセス⑤おもいでの夏⑥わが青春のフロレンス⑦殺人捜査⑧哀しみのトリスターナ⑨屋根の上のバイオリン弾き⑩アンドロメダ...  次点バニシング・ポイント になります。

Gustav
Gustavさんのコメント
2022年3月6日

いなかびとさんへ
コメントありがとうございます。この映画のジェニファー・オニールいいですよね。このイメージがあって「イノセント」のオニールを観た時は驚きました。魔性の女の役にあった演技もできるのかと感心しました。ラウラ・アントネッリの清楚な妻役も意外で、ヴィスコンティ監督の女優への演技指導は流石ですね。
俳優の好き嫌いは映画の好みと同じくどんな人もありますが、何処か恥ずかしさが付きまといます。それを承知で女優名を挙げますと、クラウディア・カルデナーレ、ジュリー・クリスティ、デルフィーヌ・セイリグ、ドミニク・サンダ、シルバ・コシナ、ロミー・シュナイダー、キャンデス・バーゲン、ダイアン・レイン、そしてデボラ・カー、ヴィヴィアン・リー、オードリー・ヘプバーン、グレース・ケリー、マリリン・モンロー、モーリン・オハラ、ソフィア・ローレン、モーリン・スティプルトン、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、更にミシェル・モルガン、マレーネ・ディートリッヒ、リリアン・ギッシュと果てしないです。演技力と役柄で惚れてしまいます。今日の若い女優さんは美しさより個性的な女性が多くなりました。時代の変化は俳優界も同じですね。

Gustav
いなかびとさんのコメント
2022年3月6日

この映画で、ジェニファー・オニールが好きになりました。清楚な美人で私好みでした。ル・グランの音楽も美しい。
映画そのものはセンチメンタルで、何度も観る映画には思えません。時は嫌な記憶を忘れさせ、美しい思い出だけを残してくれます。たまに観て、感傷に浸るには良い映画です。

オニールは後年ルキノ・ヴィスコンティ監督の作品にも出演します。私の好きな女優をヴィスコンティ監督が使うことが多く、女性の好みが一緒だなと感じました。
ネットで見る限り、オニールは七十歳を超えても美貌を保っています。写真の修整、整形手術はしているかも。

いなかびと