汚名のレビュー・感想・評価
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偽装結婚のスパイを演じる魅惑のイングリッド・バーグマン
ヒッチコック監督の第二次世界大戦後の第一作にあたる「白い恐怖」に続いてイングリッド・バーグマンがヒロインを演じたスパイ映画。主演が「断崖」(1941年)以来のヒッチコック作品のケーリー・グラントでも、ストーリーの中心人物は偽装結婚までしてスパイ活動をするバーグマンであり、この複雑な役を清楚にして柔和な美貌と確かな演技力で魅せます。戦争中のボガート共演の「カサブランカ」、クーパー共演の「誰が為に鐘は鳴る」、そしてアカデミー主演女優賞受賞の「ガス燈」で名実共にアメリカ映画界のスター女優となったバーグマンの新たな魅力を印象付けた全盛期の一本と言えると思います。
名脚本家ベン・ヘクトの創作は、ナチスの残党が南米ブラジルに逃げてIGファルベン社にウラン鉱石を密輸する秘密組織を題材としています。このファルベン社は第三帝国における最も悪名高いドイツ工業企業と言われ、実際ホロコーストのガス室で100万人以上を殺害した毒ガスを供給していた。それでも、この時代背景を色濃く反映したスパイ映画の本筋は、1940年代ハリウッドの典型的な2大スターによる美男美女の恋愛劇です。ドイツ人の父とアメリカ人の母を持つ出自のアリシア・ヒューバーマンは、ナチスのスパイだった父親を憎み、アメリカへの愛国心を持つ女性。FBIのエージェント デブリンの要請は、彼女の父親ジョンの交友関係を頼りにリオデジャネイロに住むアレクサンダー・セバスチャンの身辺調査と組織メンバーの洗い出し。そんな重要な任務を受ける前に、一緒に行動を共にする2人が恋に落ちてしまう。ヒッチコック監督の演出は、この恋愛感情の高まりをキスシーンに集中して描写しています。当時3秒以上のキスシーンが禁止されていた映画倫理に対抗して、グラントとバーグマンのキスシーンを何度も繰り返す。ヒッチコックのアイデアは常にユニークです。そして感情のすれ違いが分かる競馬場の会話場面では、女性の武器を使う潜入を断ると願ったデブリンと、一言愛してると言ってくれていれば断ったアリシアのお互いの本音が語られます。この時の双眼鏡を外してからのバーグマンの表情のアップ。涙をみせて大嫌いと呟く女心。そしてマザーコンプレックス気味のセバスチャンから結婚を申し込まれてFBI事務所に相談にくる段階までになると、アリシアが不憫に思えるし、それ以上に職務に忠実なあまり決断を彼女に委ねるデブリンの本心も理解しがたいのも事実です。人気絶頂の美人スターが快く受けて演じる女性像でないことは確かでしょう。この時31歳のバーグマンの演技力は、只々素晴しい。
しかし、セバスチャンの妻になってからのアリシアの活躍からヒッチコック監督の演出も冴え渡り、サスペンス映画の見せ場がきます。新妻の披露パーティの晩、テーブルにあった鍵束からワインセラーの鍵を抜き出したところでセバスチャンに両手を握られる。まず右手にキスされ手のひらを見せてドキッとさせ、次に左手が危ないところでアリシアが抱き着き、セバスチャンの背中に回した左手から下手の右手に鍵が渡り、床に落とされる。それを足でテーブルの下に押し込む演出の細かさ。そして2階から見下ろすカメラアングルでデブリンの登場を待つアリシアにズームアップして左手に握られた鍵をチラッと見せる。この簡潔にして緊迫感あるモンタージュの素晴らしさ。ワインセラーに忍び込んだデブリンと見張りのアリシアがいる地下と徐々にシャンパンが足りなくなる宴会フロアーのカットバックの映画ならではのスリルの醸成がいい。ここで人影に怯えるアリシアを抱きしめキスで誤魔化そうとするデブリンの作戦は、彼女がセバスチャン邸に潜入してから久し振りのキス。ここで一気に二人の消せない愛情をセバスチャンに見せ付ける恋愛ドラマ定石の脚本・演出の技量。と同時に、アリシアの立場を不利にするワインセラーの鍵のないセバスチャンの鍵束を、画面に向かってくる彼の手でみせるカメラワークの表現力もいい。因みにウラン鉱石の入ったワインの製造ラベルの1934は、ヒットラーが国家元首になった年に合わせたのかも知れません。
セバスチャンがアリシアをスパイと確信して、母親に相談するところの怖さ。ヒッチコック作品によく現れる息子を支配する冷酷な母親像です。時間をかけて病気にさせ知らないうちに死んでいくように、息子に殺し方を伝授して、その通りアリシアのコーヒーだけに毒を盛るセバスチャン親子。アンダーソン博士が間違ってアリシアのコーヒーを呑もうとして、セバスチャン親子が止めに入った後の、正体に気付かれ毒を入れられていたことに驚き立ち上がるアリシアがめまいで倒れ込むまでの映像の歪み。ラストは、仲間のメンバーが注視する中で対処出来ないセバスチャン親子の慄きと、そこから悟ったメンバーと覚悟を決めるセバスチャンの母からアリシアを救い出すデブリンの緊迫したシーンで閉めます。ナチス残党の規律優先の非情さを訴えて時局を映し出した変則ラブロマンスのハリウッド作品でした。
セバスチャンを演じたのは、「スミス都へ行く」「カサブランカ」のクロード・レインズでいい演技を見せます。この時57歳のベテラン俳優のキャリアを持ちながら、年齢を感じさせません。母役のレオポルディーネ・コンスタンチンが僅か3歳年上の60歳の珍しいキャスティングですが、このコンスタンチンも地味ながら存在感がありました。執事ジョセフのアレクシス・ミノティスは、調べると後年マリア・カラスのオペラ演出も手掛けた才能豊かな演劇人でした。一寸驚いたのはアンダーソン博士のラインフォルト・シュンツェルで、ドイツ古典映画の傑作「三文オペラ」の警察署長の人でした。監督もした人で、唯一「早春」という戦前の作品を観ています。アリシアがメンバーを初めて紹介されるシーンではひとりひとりアップで紹介され、如何にもドイツ系の顔を見せています。
エンドレス・キス大作戦‼️
世評ではヒッチコック作品の中で一、二を争う傑作として讃えられている作品‼️私的には他のヒッチコックの傑作に比べるとテンポは多少悪いし、サスペンス技巧もそれほど冴えてない感じはします‼️バーグマンが秘密諜報員ケイリー・グラントにそそのかされて、スパイのクロード・レインズの求婚に応じ、その仮面を暴く・・・‼️愛する人を敵の懐へ潜入させる‼️トム・クルーズが「ミッション・インポッシブル2」で今作を参考にしたと仰ってました‼️手に握っているワイン室の鍵を敵に悟られまいとするシーンや、バーグマンとグラントの二人が大階段を降りて邸を脱出するシーンなどが、ヒッチコックらしいサスペンスシーンなんですけど、やはりこの作品を語る上で欠かせないのは主演二人のキスシーンですね‼️電話のベルが鳴り、抱き合ったまま部屋に戻り、受話器を取る間にキスまたキス‼️離れてはくっつき離れてはくっつき、なんと2分半に及ぶエンドレスなキス・シーンを展開‼️ヒッチコック監督は「サスペンスの神様」だけでなく「ラブシーンの神様」でもあったのです‼️ケイリー・グラントがうらやましい‼️
ヒトラーは予言した『100年後にナチズムは復活すると』
嫉妬!
で始まり、陰謀で終わる。
オッペンハイマー博士の根拠はここにあり。
それを利用して、アメリカは、日本に初めてのあれをさく裂させた。
スイス、スウェーデン、そして、スペインの存在が第二次世界大戦を複雑怪奇なものにしている。戦後、ひょっとしたら、悪い奴が残ったかもしれない。
ネタバレあり。
イングリッド・バーグマン役の主人公は本当に解毒出来たのだろうか?
怖い映画だ。
オッペンハイマーの憂鬱がどうやら本当の様だ。
日本は良い面の皮って事だし、全く空気が読めていなかった。
ウラン!?
イングリッド・バーグマンの美しい横顔と唇
ナチス党員の動きを探る命を受けた女性アリシアをイングリッド・バーグマンが、米諜報員デブリンをケーリー・グラントが演じる。
机の上に置かれた鍵束から鍵を抜き取るなんて、大胆且つ危険過ぎでは?
モノクロ映像の美しさ、ラストの「ー話がしたい」の台詞が効いていた。
NHK-BSを録画にて鑑賞 (字幕版)
古典は感心ばかり
お題はネガティブだけど、ヒチコックのサスペンスとロマンスの良い作品。スリリングなシーンを抑えたのは、やっぱり一番美しい時代のバーグマンとダンディなケイリー・グラントの主演者を揃えたからか?
潜入捜査、恋人がバディ、ナチの残党と南米、第三帝国復活への暗躍、毒を盛ってじわじわと。こういうプロットは、今も使われている。屋敷の階段の不安定な構図、毒入りを暗示するコーヒーカップと仲間の誤飲阻止とか、カメラで語ってしまうところとか、さすがヒチコックと感心。やっぱり映画を知る大監督だなあ。
潜入捜査もの
ヒッチコックといえばサスペンスの神様とまで言われているのでいやがうえにも期待が募る、ところが本作は美男・美女の持って回ったラブストーリーかと疑心暗鬼。
もともとヒッチコックはメロドラマから出発した監督ですからラブストーリーを描くのもお手のもの、北欧美人のオスカー女優イングリッド・バーグマンを得てロマンス重視に舵を切ったのでしょう。巨匠も彼女にはメロメロで好きなように演じさせたようです。
もちろん、ヒッチコックですからナチスの秘密組織が健在でウラン鉱石がらみの陰謀を探る為に素人の美女を潜入捜査に使うと言う設定だけはサスペンス風。
ところが派手な攻防戦、アクションシーンは無くほとんどが会話劇、FBIもナチスも一般人を装っていることもあり緊張感のないやり取りは今どきのスパイものと比べたら雲泥の差、二人の長いキスシーンだけが話題になったという気の抜けたシャンパンのような体たらく。
それでも終盤は彼女の素性がバレ絶体絶命の危機と彼女のファンにはしっかり気を揉ませる仕掛けは忘れていませんでした、いわば美女の綱渡りにハラハラする趣向のサスペンスでしたかと納得。
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