劇場公開日 1991年1月26日

「ルノワール監督の演劇へのオマージュの素晴らしさと完成度の高さに、祝福を!」黄金の馬車 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ルノワール監督の演劇へのオマージュの素晴らしさと完成度の高さに、祝福を!

2023年3月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

何たる素晴しき映画だろうか!!!

映画に夢中だった若い頃以来、久し振りに映画を観て興奮し、何とも言えない感銘を受けました。ジャン・ルノワール監督作品では、これまで「どん底」「大いなる幻影」「獣人」「ゲームの規則」「南部の人」「河」「フレンチ・カンカン」しか観ていませんが、その中で名作の誉れ高い「大いなる幻影」「ゲームの規則」に匹敵する作品に出会えるとは、本当に幸せです。

イタリアのコンメディア・デッラルテのコロンビーナを主人公にしたこの作品は、当初予定のルキノ・ヴィスコンティ監督から引き継ぐ形で、イタリアの映画プロデューサーからジャン・ルノワール監督が依頼されたようです。その時のルノワール監督の条件は、まだ一般的ではなかったテクニカラーで撮影することと、ライブ録音であったと言います。コンメディア・デッラルテとは、16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで流行した仮面劇団で、役者は類型的な特徴を持つキャラクターの役柄を固定化してました。映画の最初の公演では、パンタローネとかアルレッキーノをドン・アントニオ座長が紹介します。このアルレッキーノは道化師や軽業師を演じ、原色のまだら模様の衣装は道化師のスタイルの起源とされている。と知ったかぶりに書くのは、この演劇一座の旅から旅の公演興行の時代再現の見事さ、衣装デザインの独創性、公演舞台の裏表の面白さ、子供たちの未完成な曲芸の可愛らしさなど、大衆演劇の粋を極めているからです。原色が鮮やかに映えるテクニカラー映像が素晴らしい撮影は、ルノワール監督の甥クロード・ルノワール(他に「河」「恋多き女」「フレンチ・コネクション2」)が担当しています。マリア・デ・マッテイスの赤と黒が美しく印象的な衣装から貴族たちの華やかなドレスまで、全て個性的です。イタリアの劇団がラテンアメリカのスペインの植民地に流れ辿りつき演劇公演するお話のこの演劇映画は、何故か英語で撮影されました。これは英語圏市場を目的にした制作の事情の様です。それでもヒロイン コロンビーナのカミーラが舞台ではイタリア語で歌います。イタリア人のスペインの植民地での演劇を英語で語るフランスの監督の映画の国際色の豊かさ。ルノワール監督の国に拘らない、何と異色でも違和感なく創作されている包容力でしょう。音楽はヴィヴァルディの「四季」などの時代にあったバロック音楽を使い、映像より主張しない丁寧な配慮が為されていました。

主演のアンナ・マニャーニの素晴らしさはいうに及ばずですが、他の役者たちも安定した演劇演技をみせて、それぞれが味があります。座長アントニオと秘書マルチネスのいい存在感。古典演劇へのオマージュを、舞台に入っていくカメラから映画の世界観で展開させ、後半の山場ではカミーラが第二幕の終わりを告げ、そしてクライマックスの大団円で完結させた脚本構成の完成度の高さ。ラストシーンにアップになる、真紅の緞帳をバックに佇む黒衣のカミーラの神々しさ。一幅の絵画として表現されたルノワール監督の最高のショットです。

内容については、言葉で簡単に説明できない複雑なものを表現している。風刺あり、皮肉ありの女性の心理ドラマとしても面白く、女優が演じることの幸せについての考察も深い。でもこれは観て感じる映画の大傑作であると思います。理屈は後からでいい。ルノワール監督の偉大さが分る、本当に素晴らしい作品でした。

Gustav