劇場公開日 1991年1月26日

「ジャン・ルノワールのファンの皆様、ごめんなさい」黄金の馬車 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

1.0ジャン・ルノワールのファンの皆様、ごめんなさい

2021年1月22日
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鑑賞方法:DVD/BD

この映画の評価として、
フワンソワ・トリュフォー監督からの
絶賛を始め、
各サイトに投稿された方々の評価も
著しく高いものがある。

しかし、
私はこの作品には全く乗れなかった。

基本的にこの映画のジャンルは喜劇
なのだろうから、
あまりリアリティにこだわる必要はない
のかもしれないが、
全くという訳にはいかない。

また、私は喜劇でも、
社会風刺や人生観の示唆の観点は必須で、
もしそうでないなら徹底的な
ナンセンスギャグでなくてはならないと
思っている。

しかし、私はこの映画には、
それらの要素を感じ取れなかった。

何故、総督・人気闘牛士・騎士という
各界有力者3人もの男が、充分な説明もなく
劇団ヒロインに夢中になるのか、
それも己の大切なキャリアを放棄してまでの
入れ込み設定は現実離れ過ぎる。
馬車の教会寄進の落ちもお手軽過ぎるし、
劇中劇の設定も、
他の優れた同様の映画作品を
凌駕することはない。

昨年来、戦前戦後の映画を集中的に
観賞したが、その中でも
デュビュデュエの「舞踏会の手帳」、
カイアットの「裁きは終わりぬ」
エルンスト・ルビッチの「私の殺した男」や
「生きるべきか、死ねべきか」
等は、素晴らしい作品だった。

ユーモア満載の作品も含め、全て、
人生や社会を深く洞察した名作だった。

しかし、
ジャン・ルノワール監督の他の作品にも、
同じような共感は得られなかった。

「どん底」は
黒澤作品を上回ることはないし、
「大いなる幻影」は
両将校の友情と別れの描写が
クライマックス過ぎて、
この後のジャン・ギャバンの
逃亡エピソードが
付け足し的に見えて締まらない。
「ゲームの規則」の恋愛ゲームと
権利による事件隠蔽の内容には、
ニキータ・ミハルコフの
「機械仕掛けのピアノのための未完成の戯曲」
にある、
やはり一カ所に集まった同じ群像劇での、
人生への深い検証の姿勢が有るわけでも
無い。

私の若い頃は、
ジャン・ルノワール監督と言えば、
映画界のビッグネームの一人として
認識させられていたが、
昨年来、
それ以上に優れた監督作品の発見が続き、
ルノワール監督はすっかり
重要では無くなってしまった感がある。

KENZO一級建築士事務所