「女王の生誕と、一女性の死。」エリザベス すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
女王の生誕と、一女性の死。
◯作品全体
エリザベス一世の在位は約50年続いたというが、本作ではその在位期間のうちの初めの2、3年を描いている。エリザベス一世といえばアルマダの海戦をはじめとする多くの戦いがあり、外国間との策謀があった人物だ。しかし、そういった映像作品の華にクローズアップせず、女王として全てを国に捧げるまでの時間に着目していることが、本作の最大の魅力だと思う。
後に黄金時代と言われる在位期間だが、「栄光ある女王の座」の描写でなく、「女王の生誕に伴う、一女性の死」という悲劇に近い空気感が常時漂っているのが印象的。一女性でいた頃の、黄金色の景色に囲まれた田舎での生活から、暗い影が画面を覆う石造りの城での生活へ移る序盤は、画面の色味からしてネガティブな印象を残す。そして恋仲であるロバート卿との時間も、結婚や政治の影によって次第に脅かされていく。その過程はまさしく悲劇だと感じるが、エリザベス自身が志す「国を護る女王」への登り階段でもあるわけで、そのエリザベス個人の「ままならなさ」が本作の魅力の大部分を担っていた。
そしてその「ままならなさ」は叛逆の目を摘むいだ後のラストシーンで結末を迎える。髪を切り、偶像のような装飾を纏い、国のために独身を貫くことを宣言するエリザベスに一女性としての姿はなく、完璧な女王として存在する。一女性としてのエリザベスは死に、女王として生まれ変わったということだろう。
ラストシーンは「絶対女王の生誕式」でもあり、「一女性の葬式」でもあった。
苦悩の末決断した女王の姿を「迷いのない凛々い女王」と見るか「多くことを捨て去り諦めた虚な偶像」と見るか。無表情でありながら複雑に内包しているように感じるのは、この作品のストーリーラインが濃密であることの証左だ。
◯カメラワークとか
・広い空間が多いけれど、狭く重苦しく感じるのは柱や窓枠を使ったフレーム内フレームが機能しているからかも。特にウォルシンガムが出てくるカットで多く使われていた。