劇場公開日 1961年7月14日

「パレスチナ、ジャマイカ、ニューカレドニア、そしてゴジラ-1.0 なにか地下深くの水脈でどれもこれもつながっている」栄光への脱出 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0パレスチナ、ジャマイカ、ニューカレドニア、そしてゴジラ-1.0 なにか地下深くの水脈でどれもこれもつながっている

2024年5月25日
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鑑賞方法:VOD

栄光への脱出
1960年公開
3時間半もあるインターミッションが入る程の超大作です
そして興行もまた当時は超大ヒットだったそうです

70㎜シネマスコープの明るく美しい画面が映画的快感を起こします
まるで21世紀にIMAXで撮影したかのような現代的なメリハリの効いた絵が撮れています
カメラも照明もべらぼうに上手いです
中東ロケですから、明るい映像は当たり前のようで、却って日差しが強過ぎて画面は潰れていまう筈です
それを映像は超強力な照明を使ってねじ伏せています
その証拠に青空がそのまま青く撮れています
照明が負けていると白い空にしか撮れません
夜のシーンも本当に夜間に撮っていますが照明の当て方が名人級で人物、建物はハッキリと見え、暗闇はあくまで暗く沈んでいるのです
カメラもレンズの味が快感を呼ぶ絵作りが随所にあり、美しい構図とともに「これが洋画だ!」という喜びを感じます

そして劇伴が素晴らしい
アカデミー音楽作曲賞を受賞した主題曲は、70mmシネマスコープのスペクタクルな映像に負けない雄大で豪華なオーケストラ音楽です
その他の音楽もどれもこれも美しく豪華なのです
これもまた「これこそ映画音楽だ!」という喜びを感じます
多くの映画音楽全集にも収録されているのは当然の永遠の名曲です

忘れていた洋画のゴージャスな世界がここにあります

監督はオットー・プレミンジャー
彼はウクライナ西部生まれのユダヤ人
長じてウィーンに出て演劇に目覚めますが、ナチスドイツの台頭を嫌って1935年に米国に移住してきたそうです
最初はブロードウェイの俳優をしていたりだったそうですが、1940年頃から映画界に関わって監督にもなります
でもあまり有名でもなく有名作品もありません
しかしどれもこれもタブーに挑んだ意欲的な作品ばかりのようです
本作もまたイスラエル建国というユダヤ人問題の根源に挑んだ作品です

オーストリア生まれで一つしか年の違わないビリー・ワイルダー監督の1953年の名作「第十七捕虜収容所」にドイツ軍の収容所長役の俳優として出演していたことを後で知りびっくりしました

ポール・ニューマンは、英軍将校役です
しかしてその実体はユダヤ人地下組織のリーダーです
当時パレスチナは大英帝国の委任統治領でしたが、第一次大戦の時の空約束でパレスチナ人には独立を、ユダヤ人にはイスラエル建国の二枚舌を使ってしまったつけが回りイスラエル建国を目指してパレスチナに植民しようとするユダヤ人とパレスチナのアラブ人の争いで板挟みとなり苦しんでいました
ユダヤ人をパレスチナに行かせれば争乱が酷くなるばかりなので、パレスチナに向かおうとするユダヤ人はキプロス島の収容所に閉じこめています
とはいえナチスドイツみたいな収容所にならないように人道的に配慮しようと四苦八苦しています
そこからユダヤ人を脱出させてパレスチナに向かわせるというのが前半
脱出に使うボロ貨物船が「エキソダス」号です
後半はそのパレスチナがどうなるのかを描きます
1947年11月の国連総会の議決により英国の委任統治領からのパレスチナ分割が認められアラブ人国家とユダヤ人国家の樹立が認められます
しかしその議決の結果どうなってしまうのか
それは2024年テレビでニュースを見ればわかります
つまり「栄光への脱出」とは、単にキプロス島からの脱出ではなく、イスラエル建国そのものを指すのだという物語です

脚本はダルトン・トランボ
彼は赤狩りの標的にされ1947年に禁固刑になった人です
その後は映画界から追放された人物です
でも実は偽名を使って脚本を書いていたそうです
あの不朽の名作「ローマの休日」や「スパルタカス」を書いていた脚本家と同一人物であることを今回始めて知り仰天しました
プレミンジャー監督は超大作の原作の脚本化に難航して彼の腕を見込んで当初の脚本家に代えて彼を起用したそうです
その仕事を見事に応えたトランボに対して監督は脚本家はトランボであると公表して彼の映画界復帰に報いたそうです
これによって映画界の赤狩りも終わったのです
これもまた「栄光への脱出」です
本作ではポール・ニューマンがモーゼ的な役割に描かれるべきところを普通の人間として描かれています
彼と米国人看護婦のキティ、ユダヤ人の美少女とその恋人の二組のカップルの恋の行方を絡めて上手く映画に仕立てあります
それはたった一人の英雄の物語ではなく、パレスチナのユダヤ人全員が英雄であるという方針で貫いているからなのだと思います
ポール・ニューマンはハンガリー系ユダヤ人なのでかなり気合いが入っていたそうですが気難しい監督と衝突して通り一変の演技で終始しています
ですが、それもまた脚本の狙いどうりモーゼのような超人的英雄ではない普通の人間であるということを表現していることになっています
監督は彼を20世紀のモーゼとして撮る気は無かったのだと思います
いずれにせよ彼は本作でスーパースターとなり、翌年は「ハスラー」でそれを不動のものにするのです

本作の舞台はキプロス島から始まります 時は1947年
そう、ゴジラ-1.0と同じ年です
つまり戦後から21世紀の現代にまで続くこの世界はこの1947年という年にあらかた形作られたのだということです
この符合にまず仰天しました

そして2024年の今
連日のようにガザ地区を巡る紛争の悲惨な有様が報道がされています
本作のエンドマークと現代までの77年間がまるで無かったかのように
一続きの物語のようなのです
映画はまだ続いているかのように

77という数字に今気がつきまました
新約聖書には、イエスはペテロに人を77回許すように言われたとのくだりがあるそうです
つまり今年は辛抱の限度がきたという年なのです
なんかオカルトですが、世界の大多数を占めるキリスト教徒の心理の奥底にあるのかも知れません
確かに世界がこれまでとは違う世界についに変わろうとしているのだということはキリスト教徒でもユダヤ教徒でなくとも感じます

本作の原題は「エキソダス」
2024年の映画「ボブ・マーリー:ONE LOVE」で本作の主題曲がひょんなことで流れ、それをきっかけに彼の名曲「エキソダス」が生まれるシーンがあります
こちらはカリブ海のジャマイカが舞台で時代は1970年頃から始まります
そして2024年、南太平洋のニューカレドニアの争乱が連日ニュースに流れます
ジャマイカとニューカレドニア
全く違うようで同じことのようにも思えます
ニューカレドニアも調べて見ると1947年は今日の紛争につながる因縁のある年だったようです

パレスチナ、ジャマイカ、ニューカレドニア、そしてゴジラ-1.0
なにか地下深くの水脈でどれもこれもつながっている
そんなふうに思えてくるのです

本作の物語はパレスチナ問題がどのように始まったのかを教えてくれる映画です
そしてユダヤ人、イスラエルへの理解を得る為のプロパガンダ映画です
身も蓋もありませんが実際のところはそうです
それでもパレスチナ問題を何も知らないよりマシです

連日のガザの惨状、ラファへのイスラエル軍の侵攻

その根源は一体なになのか
様々なメディアの角度をつけた偏向に誘導されず、自分の頭で考えてみるきっかけに本作はなると信じます
例えプロパガンダ作品であっても大変に有意義であると思います

あき240