劇場公開日 1972年7月15日

「傲慢な知性、時代遅れの感性」美しき冒険旅行 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0 傲慢な知性、時代遅れの感性

2025年12月9日
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イギリスに面白い映画はないという偏見をこれ以上強化させないでくれと心の底から思う。ロシアやドイツが数十年前にやっていたような露骨なモンタージュを俺が発見したのだと言わんばかりに堂々とやってのけるものだから皮肉の一つでも言いたくなってしまう、イギリス流に。

編集の次元で嫌というほど繰り返される先進文明と後進文明の対比ショットが一体いかなる意味を析出させるのか?せいぜい先進国的な傲慢くらいのものだ。

アボリジニの青年が野生動物に振り下ろすナタと、どこかの主婦が小綺麗なキッチンで野菜を切り刻む包丁が交互に映し出されるショットなど本当に先進国の人間が撮っているのか?と思ってしまうほどに酷い。

後進文明の優しさを享受しながらも、その文化様式に戸惑い、最終的には先進文明へと回帰していく主人公の生き様を「先進国しぐさ」の皮肉なドキュメントとして出力した、という肯定的な見方もできなくはない。しかし比較文化論の領域以外においても遺憾なく発揮される思慮の浅さを鑑みれば、そうした見方に無理があることがわかってくる。

全裸の主人公が岩場の湖を遊泳するシーンでは、先述のアナクロなモンタージュによってアボリジニの青年の狩猟シーンがインサートされる。「裸の女」と「狩猟」の交点に性的侵犯のイメージが浮上することは必然だ。あるいは「無垢」と「武装」の対比上に、害意の一方性を感じ取ることもできる。

時代が違うといえばそれまでだが、男女の単純な差異にさえ鈍感な感性が、文明の差異というセンシティブな主題を正しく取り扱えるとは思えない。

オチもなかなか雑で、小綺麗なマンションで優雅な文明生活を送っている主人公の姿が映し出されるところで映画は幕を閉じる。文明の罪を主人公一人に負わせるかのような演出をもって「知的な社会批評」をしたつもりなら、今一度ご自分の作品を見直してみてはいかがだろうか。

因果
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