劇場公開日 2025年8月23日

「第二次世界大戦終戦直後のロシア極東の強制収容所と炭鉱の町に漂う場末感 そこに生まれた無鉄砲な悪ガキ少年とその幼なじみの少女の物語」動くな、死ね、甦れ! Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5第二次世界大戦終戦直後のロシア極東の強制収容所と炭鉱の町に漂う場末感 そこに生まれた無鉄砲な悪ガキ少年とその幼なじみの少女の物語

2025年8月25日
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鑑賞方法:映画館

🎵土佐の高知のはりまや橋で坊さんかんざし買うを見た よさこい よさこい (『よさこい節』)

🎵月が出た出た 月が出た ア ヨイ ヨイ 三池炭鉱の上に出た (『炭坑節』)

🎵おどまぼんぎり 盆ぎり 盆からさきゃ おらんと ぼんが早よくりゃ 早よもどる (『五木の子守唄』)

この1989年ソ連映画(ロシア映画ではありません。ベルリンの壁が崩壊した年だけど、まだソ連は続いていたんですね)は第二次世界大戦終戦直後のロシア極東の強制収容所のある町を舞台にしているのですが、そこにいる旧日本兵の捕虜たちが劇中で上のような日本の民謡を歌います。おそらくは辛い作業をしながら、望郷の念にかられて歌っているのでしょう。日本民謡をこんなにもフィーチャーした外国映画は観たことがなかったのでとても新鮮に感じられました。

物語は炭鉱と強制収容所があるスーチャンという町を舞台に展開します。スーチャンは漢字で書くと蘇城で中国語を語源とする地名です。1970年代に現在のロシア語の地名 パルチザンスクに改称されたようです。この地名の推移でわかるように元々は中国の影響下にあることが多かった現ロシアの極東沿海地域でしたが、19世紀の中国清朝の衰亡期にロシア-清間で結ばれた北京条約で清からロシアに割譲され、その流れで現在まで来ているようです。現在のパルチザンスクはかなり小さい町のようで、私の持っている世界地図帳のロシア全体の地図では確認できず、中国東北部の地図で右端(すなわち東端)にようやく確認できました。ウラジオストクから東へ約170km、ナホトカから北へ約70km、その頃スターリンが君臨していたモスクワから見たら、ロシアの最果ての地だったことでしょう。ちなみにそこからだと、モスクワよりも東京のほうがはるかに近いです。近隣国の首都までの直線距離で比較すると、いちばん近いのは北朝鮮のピョンヤン、次に韓国のソウル、そして、東京、北京の順になります。ということで、スーチャンは東アジアの町ということになりますが、緑豊かで自然に恵まれているということもなく、この映画が全篇モノクロということもあり、映画内では荒涼とした無国籍風の風景が広がっているという感じでした。その無国籍風な風景に最初にあげた日本民謡がうまくフィットしたわけです。Wikipedia のパルチザンスクの項で出身有名人を見ると、この映画の監督のヴィターリー•カネフスキーの名前が唯一あがっていて、この映画に出てくる風景はカネフスキー監督自身の心象風景なのかもしれません。また、日本民謡はこの物語の主人公ワレルカ(演: パーベル•ナザーロフ)と同じように、監督自身が子供の頃に聞いていたのかもしれません。ワレルカは終戦直後に日本流にいうと小学校5〜6年生の感じでしたが、カネフスキー監督が1935年生まれであることと附合し、この作品には監督の半自伝的要素もあるかもしれません。

でも、まあこのワレルカというのはかなりの悪ガキです。母親も少しいかがわしい感じで父親はいません。で、絵に描いたように貧乏です。貧乏に関して言えばスーチャン全体がどうしようもなく貧乏で、強制収容所が域内にあるわけですが、町全体が強制収容所みたいで、そんな土地の風土病みたいな狂気も描かれています。

ワレルカにはガリーヤ(演: ディナーラ•ドルカーロワ)という幼なじみの女の子がいます。このふたりの交流がなかなかいいです。恋というには淡く幼い感じなのですが。

スーチャンにはシベリア鉄道の支線が走っていたようで、この作品ではそれが効果的に使われます。古今東西の映画内では列車にタダ乗りするシーンが何回も描かれてきたのですが、この作品にももちろん登場します。私はワレルカとガリーヤが並んで線路伝いに歩くシーンが好きです。

ということで、貧乏から卑屈になりながらも強がりを言って悪さを繰り返す少年とその少年をいつも気にかけていてピンチになると助けてくれるけなげな少女。ふたり並んで歩いた線路の先には……

リバイバル上映でしたが、私は初見でした。期待より、ずっとよかったです。この作品はヴィターリー•カネフスキー•トリロジーの3部作の最初の作品で、今回は3作品、一挙上映とのこと。続篇も観てみようと思いました。

Freddie3v
osincoさんのコメント
2025年8月31日

コメントありがとうございました。入江悠監督がそんな言葉を寄せていたのですか!監督にとってもそんな印象的な作品だったのなら、映画を愛するもの同士のマッチング熱いですね。
スーチャン(パルチザンスク)の場所が極東に当たるとは!とても興味深いです。

osinco