「作風確立以前のウォン・カーウァイ」いますぐ抱きしめたい バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
作風確立以前のウォン・カーウァイ
ウォン・カーウァイの監督デビュー作だが、当時僕の住んでた地方一の大都会の映画館には来ず、ビデオもレンタル店に置かれず、『恋する惑星』の大ヒットにより低価格再発売ビデオが出た後になってからレンタルビデオで観た。だいぶ後になってからの観賞で、『恋する惑星』『欲望の翼』はもちろん、『天使の涙』や『楽園の瑕』よりも後に観たんじゃないかと思う。
次作『欲望の翼』以後のカーウァイの作風とは違って、普通の平凡な香港ノワール映画である。いわゆるチンピラ映画で正直言ってそれほど面白くはない。映像感覚や音楽センスにところどころ後のカーウァイらしさが垣間見えるものの肝心のストーリーがきわめて平凡で、きっちりとしたストーリーを脚本通りに撮っていく普通の映画である。後に脚本家出身でありながら脚本を完全無視し即興的なシーンを延々(時には数年かけて)撮って、それを編集でつないでいくという手法を取るようになる人の映画だとは到底思えない。おそらくカーウァイ自身も撮っていていまいちしっくりこないというかあまり面白くなかったんではあるまいか? だからこそ次作から作風──というより製作のしかたそのものを自分のやりたいように大幅に転換したのだろう。
出来自体はそれほどではないものの、あの頃の平均的香港映画としてとても懐かしく感じたし、映画館では初観賞となった4Kレストア版を観た時には本作と『欲望の翼』を続けて観ることでカーウァイの作風の劇的変化をより鮮明に感じることができた。
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