「原作を読まないと理解するのは難しいかも」1984 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
原作を読まないと理解するのは難しいかも
私は原作を読了してから視聴しました。その上で、細かい点が理解しにくいのではないかな、と感じました。原作を読んでいるからこそ、冒頭のシーンが「二分間憎悪」なんだな、と判ったのですが、何も知らない人にはどう感じるのだろう。
ただ、瓦礫の廃墟のような町中で党員達が仕事をし、生活する暗いイメージがとても良く表現されているので、とにかく雰囲気だけ味わって、細かいことを知りたければ原作を、という感じでよいのではないかな、とも思います。ただ、実に暗い映画だし、結末も悲惨な状態で終わってしまうため、万人にお薦め出来るものではないな、と思います。
ここから、かなりのネタバレになるのですが、小説にあった附録が表現されていないのがとても残念でした。その附録というのは作品中にある「ニュースピーク」という新しい英語の詳細な「資料」であるため、映像表現など無理な話かも知れません。
その附録というのが只の附録の「資料」であるというだけでなく、(トマス・ピンチョンの解説が正しければ)それは2050年以降の、少なくとも1984年よりも遥か未来、しかも、作品中の世界観の中で記された文献であるという想定であることが考えられます。しかも、その中に主人公の「ウィンストン・スミス」の名前があるのがポイントです。
果たして、それの意味することは何か。もしかしたら、「1984年」という作品自体がいわゆる「劇中作品」であって、1984年よりかなり未来に掘り起こされた記録で、それを掘り起こすのに主人公が関わっていたのではないか。もしかしたら、あの後、犯罪者として処刑されずに生き延びて、ビックブラザーの体制が崩壊する、その一助となったのでは……などと、色んな事を考えてしまいます。
そうしたことを具体的に示すこと無く、軽く匂わせる程度で閉じているため、読み手が色んな事を考えたくなってしまう、そんな何時までもかみ続けたくなるスルメのような作品です。いろいろな作品にも影響し、例え話にも用いられることが多々あるというこの作品、原作の小説と合わせてお薦めしたいと思います。