「日常あるあるの、心の機微を丹念に描いた映画。」イタリア旅行 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
日常あるあるの、心の機微を丹念に描いた映画。
自分の居場所は、心安げる場所であるはずなのに…。
だのに、どうして、なぜ、こうなる…。
そんな二人の様子が淡々と描かれる。
観光や現地の人とのやりとりを織り交ぜているものの、二人の関係性・直球勝負。他のエピソードは無い。
辛いですね。
お互いの心の持ちようが原因だから、逃げようがない。
釣った魚には餌はやらない典型夫。
”くれない”族の妻。でも、子どものいない専業主婦って世界が狭くなっちゃうから、夫しかいない、自分の相手をしてくれるはずの人は。TVもネットもない時代。井戸端会議もすぐ飽きるし、へたすると怖いし。あとは社会奉仕活動にのめり込むしかない…。
そんな自分のいたらなさは半分わかっている。でも私だけのせい?あなただって…。
自分の態度や心を変えればいいだけなのに、変えられない。
いじめられてとか事件とか周りのせいにできない。ひたすら自分に戻ってくるだけ。
恋し、結婚した当初は、どんなことがあってもこの愛は続き、添い遂げると思って誓ったのに、今この現実。
病気とか、経済事情とか”事件”のない”凪”の時。ただ、ひたすら自分との会話。
愛の残像?夫が自分に関心がないことがひたひたと突き付けられ…。
夫は自分の邪魔ばかりしてくる妻にイライラし…。
夫婦関係に限らず、こんなぎすぎすした関係に、少しでも身に覚えがある人にはとても痛い映画です。
よく撮ったな、この映画。
その場で台本渡されてというほとんど即興劇とな。俳優お二人の才能に乾杯。
サンダース氏はそのやり方にイライラしていたとか。夫のイライラ感を出すためにあえてそうしたのかな。
そんなお二人の才能を引き出した監督としての才能にも驚嘆するけど、離婚しそうな自分の妻・バーグマンさんにこんな役やらせて映画にしちゃうなんて。バーグマンさんもやりたいと望んだのかな?現状を客観視したかったのかしら?
この数年後、監督とバーグマンさんは離婚するけれど、納得。
監督としてはすごいと思うが、人としてどうよと思ってしまう。
「男と女と車があれば…」という名言を捧げられた映画とか。
低予算でもいい映画はできるという見本。
役者の表情と、心象風景の切り取りが見事。アンサンブルで効いてくる。
へたなドキュメンタリーよりも、「我が家覘きましたぁ?」と言いたくなるほど、ドキュメンタリーっぽい。主役の二人の美貌と経済状況を除いては。
人生のある断面、男と女の普遍的なある断面を見事に切り取った映画。
だから、名作なんだけど、あまりに身につまされるので、評価が低くなる。
「亭主元気で留守がいい」なんて言っていられるうちが安泰なのか。
松田聖子さんの「なんで私達結婚している(離婚しない)んだろう」という有名な言葉もあるし。
もっと、達観できる年齢になったら、高評価つけられるんだろうな。
★ ★ ★
バーグマンさんは、まだこの映画と『カサブランカ』しか観ていない。繊細な表情に引き込まれる。
サンダース氏は、この映画と『レベッカ』・『イヴの総て』だけ。それぞれ、微妙に違う役で、印象に残る。
映画の印象に「イタイ」が欲しい。
「痛い」評価マーク・・なるほどねぇ。同感です。
嫌なもの=自分の生の姿を見せられたと鑑賞後に思う映画ってあります。
観察力と突っ込みの鋭い、素晴らしい御レビューを読ませていただき、再び苦いものが込み上げました。苦笑。
監督もやっぱサイコパスの気(け)がありますよねー、サンダース氏に監督は自己を投影し、そこで敢えてバーグマンも自分らの結婚を暴露してダメな女を演じていたならば
これはまったく恐ろしき現代の告発映画であり、不条理舞台です。
「イタリア〜」と題する映画はそのタイトルで次々借りている僕なんですが、これはもう見たくない部類に認定です。
長文失礼しました
右目でスクリーンを、左目で自分の人生を見ている きりんでした。