イゴールの約束のレビュー・感想・評価
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ダルデンヌ兄弟は人の明るい部分を信じてるんだな
多くの人は自分の考えた倫理観に基づいて他者を判断する。そして、善か悪か二極化しようとする。
しかし、自分の考えた倫理観に完全に合致する人間なんて極端な話、自分しかいないわけで、つまり、誰しもが誰かの視点では、どこかでは白でどこかでは黒なのだ。
更に掘り下げるならば、悪人は絶対に善行をしないわけではないし、逆も当然だ。人とは曖昧なものなのだ。
そんな、完全な善人、完全な悪人ではなく、綺麗に灰色に染まった普通の人をダルデンヌ兄弟は描くことが多い。厳密には白と黒の狭間で揺れる人だ。
そして最終的にはその登場人物の明るい部分にフォーカスする。
ダルデンヌ兄弟は人の善意というものを信じてるんだなと思える。そこが好きだ。
イゴールとその父親は悪どく金儲けをしている。
当然、犯罪行為であることは自覚しているだろうが、おそらく悪いことだとは考えていない。倫理観の違いというやつだ。
しかし人死にに無感情でいられるほどの人でなしではないため、イゴールと父親の間で衝突が起こった。
やっていいことと悪いことの線引きにおいてイゴールと父親に違いが出ただけといえる。
つまり、イゴールが過去の行いに対して悔い改め善人に生まれ変わったわけではないところがいい。
イゴール自身も自分の行動が善行だとは考えていないだろう。ただ、死に際の願いを果たそうとしただけだ。この願いを聞いたのがもし父親だったなら、イゴールと父親の立場は逆になっていたかもしれない。
イゴールに特別な物語が用意されているのに、イゴールが特別な人物ではないところがいい。状況が違うだけで誰にでも起こりうるのだ。
そんな普遍性の中に光を見出そうとするダルデンヌ兄弟はやっぱり好きだな。
【”少年は確かに不法移民の男の最期の願いを守った・・。”父の不法移民の受け入れを手伝っていた少年の心の葛藤と成長をドキュメンタリータッチで描く。不法移民問題にダルデンヌ兄弟が警鐘を鳴らした作品。】
ー 今作では真の悪人は描かれない。
不法移民の不正受け入れで金を稼ぐロジェ(オリヴィエ・グルメ)も、息子イゴールをこき使うが息子と住むための家を買うために汚れた仕事に手を染めているが、彼が息子を愛している事は、バーでドゥエットするシーンから伺える。
だが、それが逆にベルギーの貧困者が不法移民の不正受け入れをして金を稼ぐという負の連鎖を見る側に伝えるのである。
◆感想
・ダルデンヌ兄弟のこの作品では、音響効果などは一切使われない。それが、ドキュメンタリーを見るかのように、不法移民問題の根深さを伝える。
・不法移民のアミドゥは、不法移民摘発の際に、ロジェとイゴールが住むアパートの足場から落ちてしまう。止血しようとするイゴールの手を払いのけ、止血のベルトを外してしまうロジェ。
そして、イゴールはロジェの言いつけ通りにアミドゥを板の下に入れ埋めてしまう。
・アミドゥの妻アシタは突然いなくなった夫の身を気遣いながらも、赤ん坊の世話をする。良心の呵責があるイゴールも彼女の面倒を見てあげる。
赤ん坊が熱を出した時も、病院へ連れて行く。お金が足りないがアフリカ系の女性ロザリーがお金を出して上げる。
<窃盗すらも悪いことだと思わないような少年イゴールが、不法移民のアミドゥから遺言を託され、自分なりにそれを守り実行しようと奮闘する。
その過程で起こる、それまで父の言うがままに行動していた少年の心の変化、成長する姿が胸に響く作品。
今でも続く、不法移民問題にダルデンヌ兄弟が警鐘を鳴らした作品でもある。>
ドグマチック
いきなり老婦人が落とした財布をネコババするイゴール。父の手伝いをしていても、女の着替えを覗いたり、車の運転をしたりと、なかなか面白いキャラだ。父の不法な道徳観をそのまま受け継ぎ、ある意味天真爛漫に育ったイゴール。
死んだアミドゥは最期に「女房と息子を頼む」と言い残す。イゴールはしっかりと約束をかわしたことが、父親に追従してきた今までの自分との葛藤へとつながっていく。アミドゥの妻には彼が死んだとは告げられず、あちこちへと奔走するイゴール。徐々に彼の価値観が変化していく姿がなかなかいい。「正直に話そうよ」と父親に言い、争いになる。それでもアミドゥの妻にはなかなか告げられないもどかしさ。
シュールなエンディングが切なく、不条理な世の中を象徴しているようなシーン。妻の顔が見えないところがいい。全体的にドグマ映画のような雰囲気。
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