イゴールの約束のレビュー・感想・評価
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小さな善意大きな勇気
不法滞在の外国人の弱みに付け込んだ阿漕な商売をしている父親の助手の仕事をさせられているイゴール。彼も父親の影響を受けていてけして品行方正な少年とは言えなかった。
働いてる自動車修理工場ではお客の財布をくすねたり、不法滞在者たちにも横柄な態度で臨んでいた。
そんな彼が事故で亡くなったアミドゥから妻と子供のことを託される。父親は違法行為がばれることを嫌いアミドゥに治療を受けさせず死なせてしまうのだ。それを目の当たりにした彼は罪悪感に苛まれる。
父親から息子のお前のためにこんな商売をしてるんだと言われてイゴールはさらに苦しむ。自分の生活のために他人の不幸を利用していたことをいまさらながらに思い知らされるイゴール。
彼は妻のアシタを気遣い優しく接するが、父親からは殴られてしまう。ものすごい剣幕で息子を殴りつけた後には優しい言葉をかけるその父親との関係は明らかに支配と服従の関係にあった。
貧しい不法滞在者から搾取して富を得ようとするのにも彼らとの支配関係が見られるようにこの親子にも似たような支配関係があった。
イゴールはその罪悪感から、またアシタを気の毒に思う善意から支配者の父に立ち向かいアシタたち親子を救おうとする。
小さな善意ならだれでも持つことができる。しかしそれを実行するには大きな勇気が必要とされる。イゴールはその勇気を振り絞りアシタたちを助けたのだった。
いま世界中で移民難民問題がその国に住む国民にとって大きな懸案事項になっている。安い労働力が自分たちの生活を蝕んでいるとして多くが移民難民政策に反対の声を上げる。あるいは自国の文化が汚されるなどとして何かと排外主義に傾いている。移民難民の人々は貧困や内戦の脅威から逃れてきたような人々。
本来困っている人を目にすれば助けてやりたいという善意を抱くのが普通だが、今の世界はそんな善意さえも抱けない。それほど人々の心に余裕が無くなっているのかもしれない。イゴールのように勇気を振り絞れる人間が少ないのが今の現状なんだろう。
自国の不幸から外国に逃げて来ざるを得ないアシタのような移民や難民の人々、そんな彼らを毛嫌いする人々、彼らに劇中のように小便をかけたりして嫌がらせをする人々、自分たちの生活のために彼らから搾取して富を得ようとする人々、彼らを無視して見て見ぬふりをしている人々、そして彼らを救おうとする数少ない人々。本作で描かれる人間たちは今の国際社会の縮図そのものなんだろう。
はたしてイゴールのように勇気を振り絞ることができるだろうか。私は今も見て見ぬふりをしている人々に属している。
正しいことを行うのは難しいね
子供の頃って親に生活や何やかや100%依存してて、だからこそ親に敵対する行為は自分で自分の首を絞める行為に等しくそれが自分が正しいと思った行為であっても中々行動に移すのは難しいわけだけれど、イゴールはいろんな葛藤に身もだえしながらも、自責の念もあろうがアミドゥとの約束をちゃんと遂行してすごいなあと。で父親、殴ったり猫なで声出したり刺青彫ったりかなり気持ち悪い。たぶん変態。
ダルデンヌ兄弟は人の明るい部分を信じてるんだな
多くの人は自分の考えた倫理観に基づいて他者を判断する。そして、善か悪か二極化しようとする。
しかし、自分の考えた倫理観に完全に合致する人間なんて極端な話、自分しかいないわけで、つまり、誰しもが誰かの視点では、どこかでは白でどこかでは黒なのだ。
更に掘り下げるならば、悪人は絶対に善行をしないわけではないし、逆も当然だ。人とは曖昧なものなのだ。
そんな、完全な善人、完全な悪人ではなく、綺麗に灰色に染まった普通の人をダルデンヌ兄弟は描くことが多い。厳密には白と黒の狭間で揺れる人だ。
そして最終的にはその登場人物の明るい部分にフォーカスする。
ダルデンヌ兄弟は人の善意というものを信じてるんだなと思える。そこが好きだ。
イゴールとその父親は悪どく金儲けをしている。
当然、犯罪行為であることは自覚しているだろうが、おそらく悪いことだとは考えていない。倫理観の違いというやつだ。
しかし人死にに無感情でいられるほどの人でなしではないため、イゴールと父親の間で衝突が起こった。
やっていいことと悪いことの線引きにおいてイゴールと父親に違いが出ただけといえる。
つまり、イゴールが過去の行いに対して悔い改め善人に生まれ変わったわけではないところがいい。
イゴール自身も自分の行動が善行だとは考えていないだろう。ただ、死に際の願いを果たそうとしただけだ。この願いを聞いたのがもし父親だったなら、イゴールと父親の立場は逆になっていたかもしれない。
イゴールに特別な物語が用意されているのに、イゴールが特別な人物ではないところがいい。状況が違うだけで誰にでも起こりうるのだ。
そんな普遍性の中に光を見出そうとするダルデンヌ兄弟はやっぱり好きだな。
【”少年は確かに不法移民の男の最期の願いを守った・・。”父の不法移民の受け入れを手伝っていた少年の心の葛藤と成長をドキュメンタリータッチで描く。不法移民問題にダルデンヌ兄弟が警鐘を鳴らした作品。】
ー 今作では真の悪人は描かれない。
不法移民の不正受け入れで金を稼ぐロジェ(オリヴィエ・グルメ)も、息子イゴールをこき使うが息子と住むための家を買うために汚れた仕事に手を染めているが、彼が息子を愛している事は、バーでドゥエットするシーンから伺える。
だが、それが逆にベルギーの貧困者が不法移民の不正受け入れをして金を稼ぐという負の連鎖を見る側に伝えるのである。
◆感想
・ダルデンヌ兄弟のこの作品では、音響効果などは一切使われない。それが、ドキュメンタリーを見るかのように、不法移民問題の根深さを伝える。
・不法移民のアミドゥは、不法移民摘発の際に、ロジェとイゴールが住むアパートの足場から落ちてしまう。止血しようとするイゴールの手を払いのけ、止血のベルトを外してしまうロジェ。
そして、イゴールはロジェの言いつけ通りにアミドゥを板の下に入れ埋めてしまう。
・アミドゥの妻アシタは突然いなくなった夫の身を気遣いながらも、赤ん坊の世話をする。良心の呵責があるイゴールも彼女の面倒を見てあげる。
赤ん坊が熱を出した時も、病院へ連れて行く。お金が足りないがアフリカ系の女性ロザリーがお金を出して上げる。
<窃盗すらも悪いことだと思わないような少年イゴールが、不法移民のアミドゥから遺言を託され、自分なりにそれを守り実行しようと奮闘する。
その過程で起こる、それまで父の言うがままに行動していた少年の心の変化、成長する姿が胸に響く作品。
今でも続く、不法移民問題にダルデンヌ兄弟が警鐘を鳴らした作品でもある。>
ドグマチック
いきなり老婦人が落とした財布をネコババするイゴール。父の手伝いをしていても、女の着替えを覗いたり、車の運転をしたりと、なかなか面白いキャラだ。父の不法な道徳観をそのまま受け継ぎ、ある意味天真爛漫に育ったイゴール。
死んだアミドゥは最期に「女房と息子を頼む」と言い残す。イゴールはしっかりと約束をかわしたことが、父親に追従してきた今までの自分との葛藤へとつながっていく。アミドゥの妻には彼が死んだとは告げられず、あちこちへと奔走するイゴール。徐々に彼の価値観が変化していく姿がなかなかいい。「正直に話そうよ」と父親に言い、争いになる。それでもアミドゥの妻にはなかなか告げられないもどかしさ。
シュールなエンディングが切なく、不条理な世の中を象徴しているようなシーン。妻の顔が見えないところがいい。全体的にドグマ映画のような雰囲気。
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