「イヴの衣装の移り変わり」イヴの総て よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
イヴの衣装の移り変わり
演劇界の大物たちを相手に手練手管で立ち回り、トップ女優へと上り詰めていく一人の女性、イヴ・ハリントンをアン・バクスターが演じる。
イヴは当初、田舎から出てきたあか抜けないが、誠実な若い女性を体現している。背中が擦り切れかけたステンカラーコートに、刑事コロンボだってかぶりそうにはないようなセンスのない帽子。金も、センスも、演劇界での人脈もない、一人の孤独な女に見えるからこそ、演劇界の重鎮たちが無警戒に受け入れるのだ。
しかし、その重鎮たちの一人であるトップ女優、マーゴの付け人となるや、イヴはその抜け目のなさと観察力の鋭さをいかんなく発揮しはじめる。そこ頃の彼女は、マーゴが「年齢に合わなくなったから」という理由で譲ってくれたダークスーツを颯爽と着こなすのである。
そんな彼女の本性をいち早く見破るのも、雇い主であり、憧れの的でもあるマーゴである。マーゴの舞台衣装を返却しに行くと言っていたイヴが、その衣装を身にまとい、鏡を見て悦に入っている姿を見てしまうのだ。
マーゴの身にまとうものがことごとくイヴを包むようになる。映画はこのあたりから、イヴ・ハリントンなる女性の空恐ろしさについて言及し始める。
このように、この映画は衣装を通じて主人公の立ち位置を示していくのだが、他の登場人物たちの衣装もまた素晴らしい。
特に、最初にイブに目を留めるカレンの衣装がいい。レストランの化粧室でバクスターに脅迫をされるシーンのジャケットは、女性らしい華やかさと、堅実な雰囲気を併せ持つ。この衣装を着たカレンが、イヴによってものの見事に俎上に上げられるこのシーンがクライマックスといえる。
さて、この作品の際立った特徴の一つとして、今までスクリーンには登場してはいない人物がラストシーンを独占することが挙げられる。
プロローグの授賞式を終えて、ホテルの部屋に戻ってくるエピローグには、イヴの「追っかけ」とも言えるファンの若い女性が登場する。まるで、マーゴの付け人になりたての頃のイブを彷彿とさせるような、若さと美貌の持ち主は、やはりイブの衣装を纏い、トロフィーを手にして鏡に魅入られる。今度は、イヴがその衣装を奪われていく立場になったことを示したこのシーンで映画は終わるのだ。
素晴らしい衣装の数々はモノクロの映像で見ても素晴らしいのだが、カラーの時代だったらどのようなカラーを採用したのだろうか。そんな、衣装への興味が尽きない作品である。