「【98.7】E.T. 映画レビュー」E.T. honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【98.7】E.T. 映画レビュー
作品の完成度
スティーヴン・スピルバーグ監督の『E.T.』(1982年)は、公開から時を経てもなお、その純粋さと感動で普遍的な価値を持つ完璧な大衆娯楽映画の極致として評価される。地球に取り残された異星人E.T.と孤独な少年エリオットの種族を超えた友情物語は、SFファンタジーという枠を超え、家族愛、別れ、そして成長という人類共通のテーマを描き切っている。特に、子供の視点を徹底した演出(カメラアングルが低く設定され、大人の顔が映らない描写が多い)は、観客をエリオットたち子供の世界に没入させ、E.T.との出会いと交流が持つ神秘性、そしてE.T.を追う大人たちへの恐怖心を際立たせる効果を生む。
シンプル極まりないストーリーラインにもかかわらず、脚本の巧みさ、役者の自然な演技、ジョン・ウィリアムズの雄大な音楽が、随所で感動のピークを作り出し、観客の感情を揺さぶる。自転車が月を背景に空を飛ぶ象徴的なシーンは、映画史におけるアイコニックな瞬間として、視覚的・聴覚的に最高の高揚感をもたらす。公開当時の興行的な成功に加え、映画批評家からも高い評価を受け、その後のハリウッド映画に多大な影響を与えた。感情移入のしやすさ、分かりやすさ、そしてラストのカタルシスの大きさにおいて、本作はエンターテイメントとして非の打ち所がない完成度を誇る。
監督・演出・編集
監督スティーヴン・スピルバーグの演出手腕が、最も純粋で輝かしい形で結実した作品。彼は子供時代の孤独な感情や想像力を昇華させ、この物語を紡ぎ出したと言われている。子供の視点を重視した演出は、観客がエリオットの心情に寄り添い、E.T.という未知の存在を恐れることなく受け入れる共感の土壌を作る。特に、E.T.が初めて発見されるシークエンスや、E.T.とエリオットの感情のリンクの描写は秀逸。
編集はキャロル・リトルトン。クライマックスの自転車チェイスからE.T.との別れに至る一連の流れは、音楽と完全に同期し、緊迫感と感動を最大化する完璧なリズムを持つ。特に、当初はラッシュフィルムに合わせて作曲されたがうまくいかず、音楽に合わせて映像を編集し直したというクライマックスの飛行シーンは、映像と音楽の一体感が生み出す感動の力を証明している。
キャスティング・役者の演技
子供たちが中心となる物語において、キャスティングは成功の鍵。子役たちの自然で感情豊かな演技が、E.T.というアニマトロニクス(一部CGも使用)に命を吹き込み、物語に現実味と説得力をもたらした。
• ヘンリー・トーマス(エリオット役)
孤独を抱え、E.T.という異質な存在を心から愛し、守ろうとする少年エリオットを、純粋かつ繊細な表現力で演じ切った。E.T.との感情的な絆を共有する場面や、病に苦しむE.T.への愛情、そして別れの際の嗚咽に満ちた演技は、子役の域を超えた真に迫るもので、観客の涙を誘う。彼の目線の動き一つ一つに、子供特有のひたむきさと、異星の友を守り抜く決意が宿っている。この説得力ある演技が、ファンタジーをリアリティのある感動的なドラマへと昇華させた最大の功労者の一人である。
• ディー・ウォーレス(メアリー役)
エリオット、マイケル、ガーティの母親。夫との別居で心身ともに疲弊しつつも、子供たちへの愛情を失わない等身大のシングルマザーを演じた。当初E.T.の存在を知らず、得体の知れない事態に巻き込まれていく過程での困惑やヒステリックな反応は、物語における大人の視点を象徴し、物語に現実的な緊張感を与えている。彼女の演技は、子供たちのファンタジーの世界と、現実の大人の世界との対比を際立たせる重要な役割を果たした。
• ロバート・マクノートン(マイケル役)
エリオットの兄で、思春期特有の皮肉屋だが根は優しい少年。最初こそエリオットをからかうが、E.T.の存在を知ってからは、弟と宇宙人の秘密を守り、協力する頼もしい存在へと変化する。彼の演技は、少年たちの絆の深化を自然に示し、エリオットとE.T.の関係を見守る観客にとっての感情的な仲介者としての役割も担った。クライマックスの自転車チェイスでのリーダーシップは、彼のキャラクター成長を明確に示している。
• ドリュー・バリモア(ガーティ役)
エリオットの幼い妹。E.T.との出会いを純粋な驚きと喜びで受け入れる無邪気な姿が、作品に愛らしさを添える。当初はE.T.を恐れるが、やがて心を通わせ、E.T.に話し方を教えるなど、物語の和やかな側面に大きく貢献。その天真爛漫な表情と行動は、物語の純粋性を高めると同時に、幼い子役とは思えないほどの自然な感情表現を見せ、その後の彼女のキャリアのきっかけとなる強烈な印象を残した。
• ピーター・コヨーテ(キーズ役)
クレジットの最後に近く出てくるが、物語における大人側の最重要人物、政府の調査官「鍵の男」キーズを演じた。当初は子供たちを脅かす**「顔の見えない大人」として描かれるが、E.T.への共感を示すことで、子供たちの世界を理解する唯一の大人として変化する。彼の冷静ながらもどこか孤独を帯びた佇まいは、E.T.と子供たちの友情をめぐる物語に、奥行きと複雑さをもたらす重要なスパイス**となっている。
脚本・ストーリー
メリッサ・マシスンによる脚本は、シンプルで普遍的なテーマを扱いながら、子供たちの視点に徹することで、大人には理解しがたい純粋なファンタジーとして成立させている。物語は、地球に取り残された異星人と、家庭内の孤独を抱える少年の**「魂の共有」というロマンチックな設定を軸に展開。E.T.の病と死、そして奇跡の復活という起伏に富んだ展開は、観客の感情を深く揺さぶる。特に、エリオットとE.T.の感情と身体のリンクという設定は、友情の深さを具体的な現象として視覚化する独創的なアイデア**であり、感動的な結末へと繋がる伏線として機能する。
映像・美術衣装
マクロレンズを多用したE.T.目線のローアングル撮影や、月夜のシルエットを効果的に使った映像は、幻想的で美しい。E.T.の造形は、当時のアニマトロニクス技術の粋を集めたものであり、シワの質感や光を反射する大きな瞳など、細部までこだわり抜かれ、不気味さと愛らしさを見事に両立させている。衣装は、1980年代初頭のアメリカ郊外の日常的な雰囲気を忠実に再現。特にハロウィンのシーンにおけるE.T.の仮装は、文化的背景を取り入れた遊び心ある演出として印象的。
音楽
ジョン・ウィリアムズによる音楽は、本作の感動を支える不可欠な要素であり、映画音楽史における最高傑作の一つと称される。
彼の作曲は、物語の喜怒哀楽に合わせて緻密に構成され、エリオットとE.T.の心の機微を完璧に表現。
主題となる楽曲は**『フライング・テーマ(Flying Theme)』。このテーマは、エリオットとE.T.が自転車で空を飛ぶシーンで高らかに鳴り響き、希望と冒険**、そして高揚感を象徴。曲調の変化が映像の動きと完全に同期することで、観客は最高のカタルシスを経験する。
主題歌は特にないが、ニール・ダイアモンドが映画にインスパイアされて作った楽曲**「ハートライト(Heartlight)」**が有名。
受賞歴
第55回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、編集賞など9部門にノミネートされた。そのうち、作曲賞(ジョン・ウィリアムズ)、視覚効果賞、音響賞、音響効果編集賞の4部門を受賞。
特に、作曲賞の受賞は、音楽が物語に与える貢献度の高さを裏付けている。また、主要部門において『ガンジー』に敗れたものの、ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)と作曲賞を受賞し、商業的な成功だけでなく、批評家からも高く評価された。
作品 E.T. the Extra-Terrestrial
監督 スティーブン・スピルバーグ
131×0.715 98.7
編集
主演 ヘンリー・トーマス S10×3
助演 ロバート・マクノートン A9
脚本・ストーリー メリッサ・マシソン
S10 ×7
撮影・映像 アレン・ダビュー
S10
美術・衣装 ジェームズ・D・ビゼル
A9
音楽 ジョン・ウィリアムズ S10