劇場公開日 2000年7月1日

「今までの監督作品とは全く違うセミドキュメンタリーの趣」あの子を探して 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0今までの監督作品とは全く違うセミドキュメンタリーの趣

2025年2月19日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

『あの子を探して』 (1999/中国/106分)
26年ぶりの鑑賞。
ぼんやりと過疎の村での若い女性教師と子どもたちのハートウォーミング映画という記憶でしたが、然にあらず、かなり社会派の作品だったと再認識。

舞台は高度経済成長前夜、90年代の中国の過疎農村。
チョーク1本も満足に購入できない貧を極めた小学校に母親の看病のため一ヶ月休職するベテラン教員の代理教員として雇われた13歳の少女とコーラさえも飲んだことのない貧困にあえぐ生徒たち。中学さえも卒業していない少女はろくに授業もできず、科目によっては生徒の方が優秀。約束された代理教員の給与も支払われず、村長からは「学校経営が困難なため、これ以上生徒の人数が減ったら給与は支払わない」と言われた最中、クラス一腕白な生徒が家計を助けるため都会に出稼ぎ、少女は給与のために他の生徒たちと思案しながら都会へのバス代稼ぎに奮闘。なんとか都会に到着するが、あてもなく途方に暮れる。それでも凄まじいバイタリティを発揮して、TV番組内での公開捜査を実現、無事村に連れかえるというお話。
『二十四の瞳』や『熱中時代』『3年B組金八先生』のような熱血教員映画と(勝手に)記憶しておりましたが、原題「一个都不能少=一人も欠かさない」のように、教師と生徒の心の交流というよりも、わずかばかりの給与のために尽力せざるを得ない少女、当時の中国の格差社会を描いた作品。
とは言え、お金のための捜索から徐々に教師としての責務、生徒たちへの愛情の発露がきちんと描かれています。
監督のスケジュールの都合上、ロケ地も急遽変更、そのためキャストもほとんどが現地の一般人が採用されており、今までの監督作品とは全く違うセミドキュメンタリーの趣でありますが、21世紀間近になって都会が発展を遂げても、まだ農村では満足に教育を受けられない子どもたちが多数存在することを伝えるには、よりインパクトがありましたね。
公開当時よりも教育環境が良くなっていることを願います。

矢萩久登