「「欲望という名の電車」のようには…」熱いトタン屋根の猫 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
「欲望という名の電車」のようには…
リチャード・ブルックス監督の
「エルマー・ガントリー」
「プロフェッショナル」を観た延長で鑑賞。
先ず気になったのは、
南北戦争から随分と時間を経た時代でも、
黒人差別が続いているような
描写には驚かされたが、
それが原作者や監督の
特別な意図に基づくものなのか、
或いは南部のその時代の単なる状況描写に
過ぎないのか私には不明だ。
さて、作品名の「熱いトタン屋根の猫」の
意味はすぐに話の中で語られたものの、
夫婦愛がどう回復されるかに注目して
興味深く観た。
最終盤、
それぞれの価値観は違ったままではあるが、
親子の徹底した話し合いの結果、
親子間だけに留まらず、次男夫婦間でも
誤解の解消とお互いの理解に到達する。
ただ、この作品、テネシー・ウィリアムズの
原作に起因しているのかは分からないが、
例えば、
次男の妻を拒絶する原因があるはずなのに、
その究明の不徹底さと
彼女との生活の絡みとの不自然さ、
また、
父の封建的家長像と
次男のリベラルな思想的人間像、という
思想の異なる二人の典型的な描写の中で、
徹底した話し合いの結果ではあるものの
簡単にお互いの理解に到達させる唐突さ、
等々、映像作品としては
説明不足やデフォルメが効き過ぎた
不自然さに抵抗を覚える。
最近、
映画ではなく原作本を読むべき物語として
「老人と海」をこの映画.comで記したが、
この作品の場合も映画としてではなく、
抽象化に長け、デフォルメ化が有効な
舞台劇で味わう物語なのだろうと感じた。
総じて、
同じテネシー・ウィリアムズ原作作品
「欲望という名の電車」のようには映画化が
成功していなかったように思えた。
ところで、私は俳優を重視して
映画を観るタイプではないのだが、
父親役のバール・アイヴスは印象的だった。
彼はこの作品と同年公開の「大いなる西部」で
溺愛するが故に息子を射殺する父親を演じて
アカデミー助演男優賞を受賞している。
元々フォーク歌手ながら、
たくさんの映画にも出演したものの、
この2作品を上廻るような映画に
出演することはなかったように思える。
最近、同じことを「或る夜の出来事」の
クローデット・コルベールにも感じたが、
俳優人生を一瞬だけ輝きを強く放つ人も
いるのだなあ、と感じさせる一人となった。
さて、
この作品では、義父と夫の葛藤と比較すると
影が薄く感じたエリザベス・テーラーだが、
私の観たい作品リストに
たまたま彼女の出演作品が並んだので、
ダニエル・マン監督の「バターフィールド8」と
マイク・ニコルズ監督の
「バージニア・ウルフなんかこわくない」を
近々鑑賞予定。
より存在感のある彼女を観れることを
期待したい。