熱い賭けのレビュー・感想・評価
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ギャンブラー依存症の大学教授の弱さと愚かさを演じたジェームズ・カーンの魅力
ギャンブラー依存症で自滅する大学教授の話の設定が、今度のカレル・ライス監督作品の面白さである。しかもそのどうしようもなく賭けたい欲望を抑えきれない駄目な主人公アクセル・フリードをジェームズ・カーンが演じる意外性と、物思いに沈む冒頭シーンに流れる音楽がマーラーの交響曲第1番『巨人』の朝もやの静かな森をイメージする第一楽章の導入部だったのが興味を引く。この映画の魅力が理性的なライス監督の演出タッチとカーンの演技力と人間味にあり、その期待を持たせるだけのファーストシーンであった。このマーラーの音楽の使い方が巧い。それともう一つ印象に残るのが、アクセルの恋人ビリーを演じたローレン・ハットンの演技センスの良さだった。続いて母親ナオミのジャクリーヌ・ブルックスと祖父役のモリス・カルスキーの地味ながら堅実な演技も特筆すべきものである。
物語はアクセルが4万4千ドルの高額な借金を抱えるところから始まり、どうしようもなくなった彼は女医の母にお金を強請るが、最初はきつく断られる。これが初めてではなく、今までに何度も重ねてきたことが窺えるが、本人はそれほど苦しんでない。また一代で資産家となり優雅な余生を送る祖父の誕生日パーティーに現れたアクセルは祖父の自慢だが、それに甘えてお金をせびることはなく、やはりまた母親に強請る。海で泳いで岸に上がってきた母親に借金の金額を伝える、プライベートな日常の中の描写がいい。余りの金額の大きさに驚き、そこに息子の身の危険も感じ取ったのだろう、すぐに銀行から全額下ろして工面する。大学では学生を前にして、きちんと講義しているアクセルが描写されていて、この主人公の裏表の表現にライス監督の巧さとカーンの魅力があり、人間観察の面白さになっている。
アクセルの大学教授という社会的地位を憂慮してマフィアの圧力を抑えてくれるヒップスの存在も面白いが、その関係が壊れてからアクセルが苦境に立つ展開は、実に映画的教訓と人生の因果応報を思わせる。カジノで大儲けしたはいいが、大学のフットボール試合の八百長に手を染めて、次第に自己嫌悪に陥るのは理の当然だ。ギャンブル依存症から抜け出せない人間の弱さと、その甘えた精神の自己批判を兼ねた面白い作品だった。久しぶりのライス監督の佳作であり、ジェームズ・カーンの挑戦した役柄の好演に満足した。
1978年 10月3日 大塚名画座
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